帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (12)島皮質 3)島皮質の機能 3-1-5)情動、痛みに関わる島皮質

帯状皮質って中間管理職なのか
(12)島皮質
3)島皮質の機能
3-1-5)情動、痛みに関わる島皮質
参照)「情動、痛み」に関しては、「(5-2)前帯状皮質(個別機能)」の
1)「情動」「感情」と2)「痛み体験」
◎「痛み」は、その該当部位や強度を判別する、1)「感覚・識別」的側面(主に体性感覚野)と、不快感などをもたらす、2)「情動」的側面(主に大脳辺縁系・前帯状皮質)、それと、注意や内容判定に関連する、3)「認知・評価」的側面(主に前頭前野)から構成される。
◎痛みは、単なる1)「感覚」だけでなく、恐怖、嫌悪、怒りなどと同じように陰性(負・マイナス)の2)「感情」でもある。というのは、仲間はずれやいじめなど社会的な疎外を受けている時には、実際に身体的痛み刺激が与えられなくても、身体的な痛みと類似の脳領域が活性化する。
◎情動とは、生物が、外部から刺激を受け取り身体内部(中枢と末梢)に変化が生じ、それが原因で、その生物に行動を起こさせるような心的状態である。その生物に行動を生じさせる刺激が消失すると、それに伴った心的状態は徐々に弱まりやがて消失する。そういう点では、情動は「一過性」(短期間起こり、すぐ消える。すぐに現れて、またすぐに消えてしまう)の心的状態である。
参考)情動と感情の違いについては、(主観的)「感情」は、外界で生じている「状況の認識」(認知)と、その時に生じている「身体の変化への認識」(主観的認知)を、同時に経験することによって生じる感情である。感情には知性(外的認知)が入るので、過去の記憶・体験が加味される。その結果、感情は、経験を積むに連れてどんどんと成長して多様化して行く。主観的感情については、島皮質が自己の身体状態を意識し、そこに文脈や状況と組み合わせることにより、生み出している。
◎島皮質は、前帯状皮質や中脳水道周囲灰白質などと「痛みネットワーク」を組織する。より詳細に述べると、「侵害刺激」によって急性の痛みが生じると、一次体性感覚野・二次体性感覚野(頭頂葉)、視床、前帯状皮質、島皮質、前頭前野、の領域が活性化する。これらの領域は、痛み関連脳領域ペインマトリックス(痛み関連脳領域)と呼ばれている。
その他に活性化する脳領域として、補足運動野、扁桃体、海馬、小脳、中脳水道灰白質、外側前頭前野前頭前野眼窩部がある。
注)痛み情報は、1)脊髄視床路外側脊髄視床路(外側系)と、2)前脊髄視床路(内側系)とを両側系を上行し、それぞれ1)視床腹側基底核群と2)髄板内核群に終止する。
前者1)は、第一次体性感覚野に主に投射する中継点(経路)であり、皮膚、内臓、筋、関節からの識別性の感覚に関与する。後者2)は、大脳辺縁系に投射し、痛みの情動的側面や認知・評価的側面に関与する。前者1)は、第1次体性感覚野に到達した後、1-1)第二次体性感覚野と島皮質に向かう経路と、1-2)頭頂連合野(5野および7野)に向かう経路の2つが存在する。また、3)視床から直接、島皮質、前帯状皮質扁桃体に向かう経路もあり、結果として、3)島皮質には両方1)2)の経路を経由する情報が到達する。つまり、島皮質は、「いくつかの痛み経路が最終的に収束」する認知系情動系主観系痛覚の重要な(中枢)部位である。
◎島皮質は、痛みの体験、喜怒哀楽や不快感、特に恐怖などの基礎的な感情の体験に重要な役割を持つ。1)「身体的な痛み」のみならず、 疎外、死別、不公正な処遇などの2)「社会的な痛み」でも、更には将来の3)「痛み刺激の予測」でも、島皮質は活動する。その内で、痛みそのものの感覚的知覚には後部島皮質が、痛み刺激の予測にはより吻側(前部)が関与する。催眠暗示で誘発された痛みでも島皮質は活動する。痛みだけでなく、その真逆的な(音楽などにより生じた)感動でも、島皮質が活動する。
注)音楽を聴いて快い感動が生まれる場合、ドーパミン放出を伴う報酬系が関わる。音楽を聴いて震えるような感動をおぼえた場合、その強い感動から生じた報酬系興奮が、大脳皮質はもちろん、脳の広い領域で同調して強まる。例えば、心臓の拍動、筋肉の緊張、呼吸数の変化など、「自律神経系」の反応が強い場合、側坐核扁桃体前頭前野前頭前野眼窩部、中脳などなど、「報酬系」だけではなく「情動系」(身体反応を含めて)へも、広範囲にわたり活性化が見られる。
◎「背側島皮質」は、「背側前帯状皮質」(帯状皮質中部:24野)の前方と密に連携して、無意識性「腹側注意ネットワーク」に含まれる。このネットワークは、ボトムアップで来た予想(想定)外の刺激情報に注意を向けるために、現在の注意状況から切り換える働きに関わる。また、内向性デフォルトモードネットワークと外向性背側注意ネットワークとの切り換えにも関わる。
参照)「腹側注意ネットワーク」と「背側注意ネットワーク」に関しては、「5-2)前帯状皮質」の「12)「外向性と内向性」」
注1)デフォルトモードネットワークは、内向性を持ち、背側注意ネットワークは、外向性を持つ。ということで、両者は、拮抗関係にある。
注2)個人の注意が痛みからそれている時には、中脳水道灰白質、前帯状皮質前頭前野の一部が活性化する。
注3)痛みの刺激が加わる前に「痛みを予期」すると、一次体性感覚野、前帯状皮質、中脳水道灰白質、島皮質、前頭前野などの領域が活性化する。
注4)痛そうな映像を見ただけで、前頭前野と前帯状皮質が活性化される。
参考)ヨガの達人は、瞑想中には身体に針を刺すような痛覚刺激を与えても、痛みを感じない。その時、痛み関連脳領域の活動が消失し、瞑想中に(健常人や瞑想中以外に増加しない)中脳被蓋部、前頭葉頭頂葉の血流が増加してくる。中脳被蓋部は、下行性抑制系の重要な部位であり、瞑想中には下行性抑制系の顕著な活性化を示す。このように瞑想中は下行性抑制系が最大限に活性化されるために、痛みを感じない。「下行性疼痛抑制系」は、脳幹部から脊髄後角に下行し、痛覚情報の中枢神経系への入り口である脊髄後角で痛みの伝達を抑制する。またノルアドレナリンセロトニン、GABAやドパミンと多様な伝達ホルモンが作用するが、それ以外にも、精神的興奮、精神的集中、恐怖などでも作動する。
注)(中脳の内部のほぼ正中には中脳水道と呼ばれる穴)中脳水道より腹側の内で、背側部分を中脳被蓋、中脳被蓋から両側腹側に突出した部分を大脳脚という。なお中脳水道の周りは中脳水道周囲灰白質(中心灰白質)に囲まれている。
◎例えば、「ドーパミン」に関しては、「痛み情報」が入ると、「腹側被蓋野」から側坐核腹側淡蒼球に向けてドーパミンが放出される。そのことによって「側坐核」が活性化して「鎮痛作用」を発揮する。もう少し具体的いうと、中脳辺縁系ドーパミン神経は、側坐核のD2受容体を活性化することによって、持続性の痛みの抑制に関与する。この流れは、中脳辺縁系ドーパミン系、即ち腹側被蓋野から側坐核腹側淡蒼球前頭前野扁桃体などへ軸索を伸ばしているドーパミン回路である。
ドーパミン神経・側坐核は、一般に報酬系と理解されているが、このように負(マイナス)をゼロに戻す働きもする。具体的にいうと、ドーパミン受容体には、D1、D2、D3、D4、D5受容体と5種類あり、その内で興奮性(アクセル)を担う受容体は、D1、D5受容体で、抑制性(ブレーキ)を担う受容体は、D2、D3、D4受容体である。
参照)「5-4)前帯状皮質」の「12)「外向性(背外側システム)と内向性(腹内側システム)」」