帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 9)「催眠」

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
9)「催眠」
◎催眠は、一定の「暗示」操作に基づいた、意図的人為的な「注意集中」によって引き起こされる特殊な心身の状態を引き出す行為である。
注)「暗示」とは、言葉や合図などにより、他者の、思考、感覚、行動を操作し誘導する心理作用をいう。
◎催眠中では、脳幹にある網様体賦活系は、刺激に反応して刺激のある部分だけを活動させてそれ以外は活動が低下する。つまり、言語(音)にだけ意識を固定(集中)した場合は、聴覚野が活発的に活動する。他の部分は活動が低下し休む。
網様体賦活系は、感覚情報のフィルター機能、ゲート機構の役割を担う。催眠によって、意識を視覚だけとか聴覚だけとかに集中固定させると、網様体賦活系のフィルター機能によって、他の感覚情報は無意識的に抑制される。
更に身体の緊張がほぐれると暗示を与えると、身体の緊張や力などが休み、最終的には、大脳新皮質の大部分が休み放心状態(催眠状態)に入る。
つまり、大脳新皮質というトップダウン機能(最上位からの判断機能/「メタ認知」)が停止し、ボトムアップ情報(聴覚や視覚)だけを頼りに判断する。だから、夢見、洗脳、瞑想とも類似の精神状態である。
注)「メタ認知」とは、自己(自分自身)の客体化であり、内省的に捉え認知する能力であり、自分とは一端離れた(一つ上の階層からの)視点を持つことである。自己洞察(機能・能力)である。
所がメタ認知能力が低いと、必要な情報を察知できず、視野の狭い短絡的、感情的、主観的な判断と行動をしやすい。また、メタ認知能力(前頭前野)が弱いと、衝動性が高くなり、自己に関連する情報や他者の非言語的なメッセージを誤解しやすくなる。
メタ認知能力の発達は、行動主体としての自己に気付くことから始まり、5、6歳頃から、周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態を予測するなど、メタ認知的機能の能力が芽生える。
◎記憶に関するメタ認知のことをメタ記憶と呼ぶ。長期記憶のメタ記憶処理時に背外側前頭前野の9野が、新しい記憶のメタ記憶処理には6野が特異的に活動する。
これは、大脳辺縁系での記憶処理を大脳新皮質前頭葉がメタ記憶(記憶のモニタリング監視)をするという重層的階層構造を意味する。
注)6野:前運動野(運動前野、上・中前頭回後部、中心前回後下部):二次運動野(補足運動野:6野内側部後方)
注)9野:前頭前野背外側部(上前頭回前部)
◎脳波の一つである「シータ波」は、とても「リラックスし」ている状態や「夢を観て」いる状態を指し示す。
注)シータ波は、記憶を司る脳の部位「海馬」との関係が強く、眠気のある時、勉強あるいは具体的な作業に集中している時、深い瞑想状態などに発生する。
◎気功法実施中、気功師の「前頭部」には「後頭部」の「アルファ波」と同期したアルファ波の出現が見られる。
◎催眠中も、施術者、受け手とも「前頭部」に「アルファ波」も多少現れわる。催眠状態になると、脳波が、起きている状態に流れるベータ波からリラックスした際に流れるアルファ波へと下がっていく。
注)脳波のアルファ波は、後頭部を中心として、安静、閉眼時に現れる。瞑想の深い状態では、アルファ波とシータ波が確認される。アルファ波の周波数が低くなることでシータ波に移行する。
◎催眠状態では、「島皮質」、「前帯状皮質」(32野:腹側部)が活性化する。その内でも、外界情報が集まる背側前帯状皮質(24野:認知領域)の活動は低下する。計画の立案とタスクの遂行を司る背外側前頭前野と身体状況の把握を司る島皮質のつながりが増大する。背外側前頭前野(外向性)とデフォルトモードネットワーク(内向性)のつながりは減少する。DMNはぼんやりしている(内向している)ときに最も活動する領域で、この繋がり(情報の統合)の減少により、催眠状態の人は、催眠術者が誘導させる行動を意識せず(無意識裏)に行う。背外側前頭前野による懐疑力が低下し、内的集中力だけは冴えわたり、しかも主体性には乏しい。つまり、メタ認知(外界情報収集)領域としての背外側前頭前野が不活性となり、その結果、催眠状態の人は、催眠者からのトップダウンの指示(聴覚)に疑うことなく従順になる。
◎催眠によって、活性化される領域(前帯状皮質中間部:32野:内界情報収集)と、沈静化される領域(前帯状皮質背側部:24野:外界情報収集)とが、(前)帯状皮質にはある。だから、同じ帯状皮質といえども、催眠によって、活性化される帯状皮質領域もあれば、沈静化される帯状皮質領域もある。
◎催眠によって誘発された痛み体験の場合は、前頭前野、前帯状皮質(24野32野)、前部島皮質、下頭頂小葉(39野40野)、体性感覚野、視床、小脳、が活性化する。
注)視床尾状核は、注意や覚醒に関わる脳領域である。楔前部や後側頭領域は、身体意識なども含めた「自己認識」に関わる脳領域である。
◎催眠は、前帯状皮質(24野)の活動を低下させ、1つのこと(例えば視覚や聴覚など)に意識を集中させるとともに、背外側前頭前野(反応抑制機能)に働きかけて、痛みの感覚を制御し、自分への意識の集中を緩和させる。
注1)前頭前野背外側部は、認知的な痛みの認知・制御に関わる脳領域である。
注2)前頭前野背外側部と、「前帯状皮質(内側部)と内側前頭前野」との間に負(拮抗的)の相関関係が認められる。痛みの情動的な側面(内側部)が、前頭前野背外側部によって認知面において制御された(抑制された)と言える。
◎催眠によって活性化される「前帯状皮質中間部」(32野)が働きかけて、「鎮痛」効果を誘発させる。
注)前帯状皮質(内側部)と内側前頭前野は、痛みに対する情動的側面や痛みの価値判断に関わっている脳領域である。
◎催眠状態では、脳の「顕著性ネットワーク」の一部である「背側前帯状皮質(24野)」の活動が低下する。この領域は物事を客観的に比較検討し、警告警報する価値があるかを判断する時に働く。背外側前頭前野と背側前帯状皮質は、(外界から入って来た)客観的情報を扱い、内側前頭前野と腹側前帯状皮質(25野・32野の腹側部)は、(内界から上がって来た)主観的情報を扱う。
◎下行結腸刺激は、直腸刺激に比し、二次感覚野、背外側前頭前野、内側前頭前野、前帯状皮質をより活性化させる。
右背外側前頭前野は、橋、右海馬、左前帯状皮質、右下部頭頂皮質における脳活動と協調して活性化することによって、内臓知覚の催眠変容を促進する。一方、催眠変容を阻害する神経回路として、右内側前頭前野、左後帯状皮質がある。