帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (6)後帯状皮質 3)後帯状皮質の機能 3-2)記憶

帯状皮質って中間管理職なのか
(6)後帯状皮質
3)後帯状皮質の機能
3-2)記憶
3-2-0)記憶とは
◎脳は、母体から誕生した瞬間(厳密には胎児の段階)から死ぬまで膨大な量の情報に晒され続ける、自分自身と外界(周囲の世界)とに関して。その体験を意識しようがしまいが留め置くのが記憶である。その内で、脳(あなたはではなく)が、重要だと判断した情報のみ記憶として保持される。先ずは、海馬に一時的に(短期記憶として)保存される。だがしかし、長期記憶へと変換されなければ時間が経つと消えてしまう。大脳新皮質に長期記憶として保持された記憶は、脳が損傷しない限りは、消えることはなく、一生残る。
3-2-1)記憶と作業記憶と海馬
◎さまざまな「記憶課題」を遂行中に、「帯状皮質後部」が活性化する。帯状皮質後部は、「長期記憶」と「ワーキングメモリ」(作業記憶)とを密接に「結ぶ」機能を営む。
注1)作業記憶は、「未来を志向」し、「行動」や「認知」の「プランを考え」たり、その「実行」とに関わる記憶」(一時記憶)をさす。作業記憶に関わるのは、前頭前野頭頂葉、前帯状皮質、および大脳基底核の一部である。
注2)作業記憶は、心の内部(内向的)での複数の作業が、並列的に遂行されるような、高次認知活動を支える「記憶システム」である。
参照)「作業記憶」に関しては、「4)帯状皮質全般の機能」の「(3)帯状皮質の機能」の「3-2)個別機能」の「3-2-3)作業記憶」
参考)コンピュータでのRAM(ラム)とは、「Random Access Memory」(ランダムアクセスメモリ)の略であり、CPUが何らかの処理を行ったり、画面上に何かしらのデータを表示したりする時に使う作業用のメインメモリ(主記憶装置)である。RAMのデータは頻繁に書き換えられ、電源が切れると作業に使っていた一時データも消える。分かりやすく言い換えるなら、RAMは作業台の広さと表現できる。メモリが多い(=机が広い)ほど、一度に多くのアプリを開く(道具と材料を置く)ことができる。所が、ワーキングメモリは、中央演算装置(CPU)が担う処理や操作の働きをも持つ。つまりワーキングメモリは、「中央処理装置(CPU)と主記憶装置(メインメモリ)を合わせたもの」である。だから、作業用記憶装置ではなく、「作業+記憶装置」である。
注3)記憶に関しては、短期記憶の中から長期記憶になる情報が選ばれる。長期記憶はいつでも取り出せる状態になっている記憶である。作業記憶は、一時的な記憶保持台として使われ、何か実行中の記憶(情報)を一時的に保持して置くものであり、必要な情報の一時的仮置き行為(内容)をいう。
注4)長期記憶(倉庫)から取り出した(紐づけ)情報は、作業記憶の容量に影響を与えないので、情報を長期記憶(倉庫)に入れることにより、作業記憶の負荷を減らすことができる。
注5)長期記憶は、保持時間が長く、短期記憶とは異なり、容量の大きさに制限はない。
注6)作業記憶が、同時に注意を向けることができるのは、活性化した長期記憶の構成要素のうち最大で4つのチャンク(塊、グループ)でである。
注7)長期に継続する記憶痕跡(エングラム)が刻み込まれた神経細胞をエングラム細胞という。「海馬」には位置情報を保存する「場所」細胞とは別に、「文脈情報」(いつ、どこで、何が起こった)を保存する記憶エングラム(痕跡)も存在する。「海馬」は、記憶保存庫としてではなく、エピソード記憶の「インデックス(索引)」として機能する。エピソード記憶を構成する情報(本体・内容)は、海馬ではなく大脳新皮質に保存されていて、海馬にはそれらを呼び起こすためのインデックス(索引)(周辺情報:場所・文脈・付帯情報)が記録されている。
◎「後帯状皮質」は、「作業記憶」の課題進行中は、活動が低下する。つまり、同時並列的には活動しないということである。それに対して、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)には、「前帯状皮質」も「後帯状皮質」も加わる。
3-2-2)記憶内容(情報)は海馬から大脳新皮質
◎海馬は、エピソード記憶の形成や想起に重要な脳領域である。覚えた記憶は、時間経過とともに、海馬から大脳新皮質に徐々に転送され、最終的には大脳新皮質に貯蔵される。海馬から大脳新皮質への記憶の転送は、前頭前野のエングラム細胞の成熟と、その後の海馬のエングラム細胞の脱成熟により、記憶想起に必要な神経回路が切り替わる。
疑問)海馬から大脳新皮質に記憶内容が転送されるか、それとも単にインデックス(索引)だけが転送されるのだろうか。
解)過去の体験についてのエピソード記憶は、形成された直後(近時記憶)は海馬に保存されるものの、時間経過とともに大脳皮質に移動し、そこで遠隔記憶として固定される。これを記憶の標準固定化説と呼ぶ。他方、エピソード記憶は、遠隔記憶になっても全てが大脳皮質に移動するのではなく、部分的に海馬に残り続けるという研究報告も多数ある。これを記憶の多重痕跡説という。つまり決定的結論には至っていない。
注1)エピソード記憶とは、陳述記憶の一つで、個人が経験した出来事に関する記憶であり、出来事の内容に加えて、出来事を経験した時のさまざまな付随情報(時間、空間的文脈、その時の身体的・心理的状態などの文脈情報)も共に記憶されている。つまり、エピソード記憶には個人性が強く残っている。
注2)海馬には、位置情報を保存する場所細胞とは別に、いつ、どこで、何が起こったという文脈情報を保存する記憶エングラムが存在する。内側側頭葉(海馬と海馬傍回(内嗅皮質・周嗅皮質・海馬傍皮質))を両側損傷した患者では、エピソード記憶の障害が顕著である。
注3)エングラム細胞の「成熟」とは、時間経過とともに、「樹状突起を増加」させ、前頭前野での神経細胞同士の「つながりを強化」することである。最初はその出来事を思い出すのに主に海馬を必要とするが、その記憶を覚えた後、時間経過に伴い徐々に海馬は必要でなくなり、数週間後には大脳新皮質を使ってそのときの出来事を思い出す。
注4)エピソード記憶の記銘の際には左の前頭前野が関与し、想起に際しては両側の前頭前野が関与している。意味記憶の随意的な想起には左腹外側前頭前野の役割が重要である。また腹外側部はワーキングメモリ内の情報の選択や保持にも重要である。