帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 3)「デフォルトモードネットワーク」(その一)

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能)
3)「デフォルトモードネットワーク」
3-1)デフォルトモードネットワーク(DMN)
注)「デフォルト」とは、あらかじめ設定された標準的な動作条件や値を意味し、初期設定、初期値と訳される。
◎デフォルトモードネットワークの中心脳領域は、大脳皮質正中内側部(大脳縦列)の「頭頂葉内側部」(楔前部、後帯状皮質脳梁膨大後部皮質)と「前頭葉内側部」(内側前頭前野、腹側前帯状皮質:32野)、頭頂側頭接合部、前頭前野背外側部、側頭極、海馬・側頭葉内側面などである。
注1)正中とは、物を二等分する真ん中の部分をいう。
注2)DMNの活性化脳領域は、状況によって活性化する脳部位が幾分か異なる。
参考)大脳皮質正中内側部構造は、前帯状皮質(32野)、内側前頭前野(10野:前頭極)、後帯状皮質(23野31野)、および楔前部(7野)を含む。
◎デフォルトモードネットワーク(DMN)とよばれる、「安静時に働
く」神経回路網は、「前頭前野内側」、「前帯状皮質」、「後帯状皮質」、下頭頂小葉、外側側頭葉、海馬体を含み、「メンタライジングネットワーク」(心の理論)とほぼ一致する。大脳皮質正中内側部構造とも大きく重なる。
注)39野:角回(下頭頂小葉)(頭頂連合野)(聴覚性言語野)
◎このネットワーク(DMN)は、「注意を内面に向けた内的注意状態」、「ぼんやりした時」、「安静状態の時」、「自由な想像を巡らす時」、「発散思考の時」に活動する。
注)発散思考とは、論理性にこだわらずに、様々な視点から答えを考え出そうとする思考で、ある課題について、関連がある情報や知識をできるだけ幅広く大量に想起することを心がける。つまり、無意識からのボトムアップ情報を集める、情報収集方法である。
注)トップダウン注意を要する場合では前頭葉が、ボトムアップ注意が働く場合では頭頂葉が、目標の位置情報をより早く表現する。またトップダウン的に、ある位置に注意を向けるとき、前頭眼野を含む上前頭連合野と頭頂間溝周囲の上頭頂連合野の活動が上昇する。
◎内界への関心(外界の刺激によらない自発的な認知活動)に関連したDMNの活動は、外的な課題を行っていない時によく見られる、空想、想像、白昼夢など、刺激とは関係のない思考、無意図的想起、つまり思い出そうという意図がないにも関わらずふと何かが思い浮かぶようないわゆる「マインドワンダリング」(意識的な目的のあるトップダウン作業に集中していない無意識的なボトムアップ状態)に関係する。つまりDMNは、「内向性」「受動的」意識状態である。
◎内向性と述べたが、DMNは、外的環境の受動的モニタリングにも関係する。この場合は、外界への意識的、能動的な探索(能動的意識)とは違って、なんとなく漠然と外界の情報を受け取っているという(受動的意識)状態である。
参考)能動的意識と受動的意識との関係は、lookとseeとの関係、listenとhearとの関係である。lookとlistenは、情報を積極的に取りに行く志向性意識状態であり、seeとhearは、向こうから勝手に入って来る情報を受動的に受け取っている受動性意識状態である。別の言い方をすれば、積極的意識は、トップダウン型であり、受動的意識は、ボトムアップ型である。
◎DMNとほぼ同じ「マインドワンダリング」(空想、想像、白昼夢など、意識とは関係のない思考また無意図的想起)も、後帯状皮質と楔前部の活性化を伴う。
◎デフォルトモードネットワークは、前頭葉主導の2種類の内外ネットワークのどちらにどの程度の「注意を配分」するかという決定に関わる。つまり、「外側へ向かう注意を、内向させる」逆に「内向きから外向きへと反転させる」機能を持つ。
参照)「5-3)前帯状皮質」:「12)「外向性と内向性」」
◎デフォルトモードネットワークは、「他者の理解」において重要な役割を果たす。「表情、しぐさ、行動」などの外的な表現に基づき、その後「他者の心的状態を理解」する機能を言う。つまり、他者理解には、心(注意)を外向(外的な表現)から内向(内的な心・意思)へと反転させる必要がある。この場合には、限りなく「メンタライジングネットワーク」(心の理論)に近い。
注)「メンタライジングネットワーク」(心の理論)に関しては、この後で解説する。
◎DMNは、自伝的記憶(エピソード記憶)、展望(未来に関わる)記憶、自己に関係した活動、社会的認知、意味記憶などでも働く。というのは、DMNは、自己言及や情動処理過程に関わる内側前頭前野や前帯状皮質前部を含む部位と、エピソード記憶や知覚処理に関わる後帯状皮質・楔前部や下頭頂小葉を含む部位が中心となるからである。
注1)「自伝的記憶」とは、人がそれまでに経験した出来事に関する記憶である。自伝的記憶は、「エピソード記憶」の一種であり、過去の記憶の中でもその人にとって特に重要な意味を持ち、自分自身のアイデンティティを形作るような記憶を意味する。
注2)展望記憶とは、日常記憶を代表する記憶現象のひとつで、予定や用事などの「未来の事象に対する記憶」をいう。予定の存在想起には前頭葉(内側部)が関与して、内容想起に関しては側頭葉内側部が関与する。
注3)「意味記憶」は、その情報をいつ・どこで獲得したかのような付随情報の記憶は消失し、内容(本体)のみが記憶された知識である。側頭極の限局性萎縮により、意味認知症(単語、物品、人物などの意味理解)が選択的に障害される。特に、左側頭極の萎縮では語義が、右側頭極の萎縮では人物の意味記憶が障害される。特定の意味カテゴリーの意味理解が選択的に障害され、意味記憶のカテゴリー特異性障害が発生する。
◎「後帯状皮質」は、デフォルトモードネットワークでの重要な領野であり、注意(外界への関心)を必要とする課題では相対的に不活性化する。逆に、自伝的記憶を検索したり、将来の計画を立てたりする時や、脳の活動が自由に想うままに振る舞えるような制約のない休息時、即ち意識が内面(心)に向き合っている時に活動が増加する。
◎DMNは、一般的に様々な認知課題の遂行中には活動が低下する。注意は、当該の課題に関連した脳領域の活動に影響を与える。つまり、注意が配分された刺激・情報に関係した領域の神経活動は上昇するのに対して、注意が向けられていない刺激に対応した領域の神経活動は低下する。
参考)注意に関する機能は、1)覚醒機能(視床に由来する外発的注意)は感覚入力の段階、2)定位機能(頭頂葉や前頭眼野に由来)は入力「情報」の選択・選別段階、3)実行注意(前頭前野と前帯状皮質に由来する内発的注意)は「反応」の選択の段階がある。
◎DMN自体が消費するエネルギーは、脳の全エネルギー消費の60〜80%を占める。