帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (3)帯状皮質の連絡・接続 ゲート機構

帯状皮質って中間管理職なのか
(3)帯状皮質の連絡・接続
参考2)ゲート機構
◎上(((1))帯状皮質とは」)で「ゲート(門)の役割」という表現が出たので、それについてここでまとめたい。先ずは、「ゲート機構」とは、「出入りするものや情報などを選別」する機構をいう。生物の身体には、情報以外にも出入りするものを選別する機構・機能が様々ある。ここでは、情報に限定して述べる。
1)「視床」(特に視床網様体視床枕)による「感覚情報」の選別
感覚情報-視床-「視床網様核」-大脳新皮質
◎「感覚系情報」は、「感覚器官」に取り込まれて、嗅覚を除いて、「視床」(外側膝状体:視覚、内側膝状体:聴覚など)を経由して「大脳皮質一次感覚野」へと送られる。
注1)外側膝状体(視床)は、網膜からの視覚情報を受け取り、後頭葉の一次視覚野(17野)へ中継する。
注2)内側膝状体は、耳から入った聴覚情報を側頭葉の聴覚野(41野と42野:上側頭回の後半部、横側頭回:ヘッシェル回)へ送る。
注3)外側核(視床外側核群)が、体性感覚情報を大脳皮質の頭頂葉体性感覚野(3野1野2野)へと中継する。
注4)味覚情報は、直接視床後内側腹側核を経由して、3野と外側溝内で頭頂葉弁蓋部から島に掛けた部位の2所の第一次味覚野へと送られる。
ところで、すべての情報が、そのまま伝達されるわけではなく、視床において情報が選別されている。より具体的には、「視床網様核」や「視床枕」が、「視床ゲート機構」としての役割を果たす。つまり、視床網様核からの「抑制性入力」によって、大脳皮質へ送る情報と送らない「情報を選別」する機構を担う。
注)視床網様核は、視床の外側を取り囲んでいる。他の視床核と対照的に、視床網様核はガバ作動性(抑制性)神経細胞から成る。視床網様核は、直接大脳皮質には投射しないが、視床-皮質投射神経を抑制することで皮質へ伝えられる情報量を調節し、感覚情報ゲート機能や注意に関与する。
◎1)「視床網様核」の情報選別は、「ボトムアップ式」の注意によって、「背景の情報を抑制」してスポットライトの明るさを際立たせる働きを持つ。逆に、2)前頭葉、側頭葉、頭頂葉から「トップダウン式」に制御を受ける部位は、「視床枕」であり、トップダウン様式の注意を増強したり、行動を円滑に行ったりという機能を持つ。
注)注意を向けるとき、視床枕核で、「注意対象に関する情報が処理」され、それ以外の物に関する情報が除外される。詳しく述べると、例えば、視野内で行動的に意味のある複数の刺激が、視覚的注意資源をめぐって競合する場合に、視床枕核の活動が、無視対象ではなく、注意対象によって活発化する。つまり視床枕核が、視覚を混乱させる要素・対象を除去する。視覚野は、重要度を選別しないが、それをするのが視床枕である。なお視床枕は、ほぼ全ての視覚系皮質領域と双方向的に結合している。
◎深い睡眠である「徐波睡眠時」には、外界から入力される感覚情報は、視床において検問を受け、大脳皮質感覚野へと情報が運ばれなくなる。
2)「帯状皮質」による「上下情報」の選別
大脳辺縁系(とそれよりも下位階層)-「帯状皮質」-大脳新皮質
◎上(1)「視床」による「感覚情報」の選別)で述べたように、「注意」とは、感覚器を通して入り込む膨大な情報から特定の有用・重要な情報を選択し、その選択している状態を維持する働きであり、更に選択した情報を優先処理し、選択されなかった情報の処理を抑制する精神活動である。
◎つまり、注意とは、一部の刺激を取り入れ、それ以外の物事を排除する心的過程や能力をいう。だが、「帯状皮質が関わる注意」は、感覚器官から情報を取り入れるときに働くだけではなく、行動、記憶、思考や情動を制御したり、覚醒状態や集中している状態を維持する働きをも含む。
つまり、帯状皮質の関わる注意は、視床(脳幹内間脳)(感覚情報)の関わる注意よりもより階層の高い注意で、大脳新皮質大脳辺縁系などから来る多種多様な情報の選別機能であり、志向性意識である。
注)ほ乳類の脳に共通する脳幹を取り巻く皮質領域(帯状皮質、海馬傍回、梁下野(膝下野)、海馬)を大脳辺縁系と呼ぶ。大脳半球内側にある帯状皮質、海馬傍回、鈎および海馬、透明中核、扁桃体などは、相互に密接な線維連絡があり機能的にも関連が深いので、一括して大脳辺縁系と呼ばれている。
視床の項「1)「視床」による「感覚情報」の選別」で述べた、「トップダウン注意」と「ボトムアップ注意」とを両者ともに「制御(選別・調整)」するのが、「帯状皮質(特に前帯状皮質)」である。
参照)「6)後帯状皮質」の「*1帯状皮質の機能」の(3)「注意」。
注1)海馬傍回(海馬回)は、海馬の周囲に存在する灰白質の大脳皮質領域で、大脳内側面の脳回のひとつである。記憶の符号化及び検索において重要な役割を担う。
3)「大脳基底核」による「運動情報」の選別
脳幹-「大脳基底核」-大脳新皮質(と大脳辺縁系)
基底核は、上位階層の、認知的な「随意運動」の発現を担う大脳皮質(特に前頭葉)から、下位階層の、姿勢反射や筋緊張、歩行などの生得的・無意識的・反射的な運動を担う脳幹への運動情報(とその逆方向の情報も含めて)伝達を、ゲート(出入り情報の監視選別)している。大脳基底核は、強力なトップダウン式抑制と逆の脱抑制とによって、大脳皮質と脳幹の間で取り結ばれる時間的・空間的な活動動態(運動情報)を協調的に制御することによって、適切な運動機能の発現に寄与する。
このように、大脳基底核は、内的な情報(記憶や企画)に基づいて、今現在の外的な情報(感覚情報)を抑制的に修飾し、前頭葉によるトップダウン式随意運動を発現させるゲート機構でもある。
参考)運動・行動は、階層的に三つに分類される。1)「第一階層」は、生存に必須の「生得的パターン運動」である。これは、「脳幹と脊髄」にこれらの運動を生成する神経機構が存在する。2)「第二階層」は、「情動行動」である。第二階層である「辺縁系視床下部」は、脳幹・脊髄の典型的パターン運動生成機構の上に修飾系の自律神経系を追加動員する。3)「第三階層」は、「随意的な運動や行動」であり、それには、「大脳新皮質」で生成される認知情報、記憶、意志を必要とする。
これらの三つの階層機能(トップダウン情報とボトムアップ情報)を制御するのが、運動分野担当の大脳基底核である。
4)「歯状回(抑制)」「乳頭体(促進)」による「記憶情報」の選別
パペッツ回路(海馬-脳弓-乳頭体-乳頭体視床束-視床前核-帯状皮質-海馬)
◎歯状回(海馬へとやって来た情報を最初に受け取って海馬の中へと送る役割を果たしている場所)には抑制性のゲート機能が存在する。それに対して、視床下部の乳頭体上核は、その歯状回の抑制を解除する働きをしている。記憶回路は、常時閉じられているが、乳頭体が開門する。
注)歯状回は、海馬の一部分である。
◎乳頭体上核と歯状回間には神経回路が存在する。この回路は、記憶と情動とを強く結び付ける。その回路は、パペッツ回路である。
注1)視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を通して脳内に入って来る情報に歯状回は反応する。その歯状回では、生涯にわたって新しい神経細胞が生まれる。新生神経は、新しい記憶の形成に重要な役割を果たしている。常に抑制されている歯状回に脱抑制スイッチを押すのが乳頭体上核である。だから、厳密には、記憶情報の選別をするのは、乳頭体上核(視床下部から突き出た左右一対の隆起)である。
つまり、歯状回は、門(ゲート)で、乳頭体上核は、門を開くスイッチ機能である。歯状回は、新しい記憶情報を保存する神経細胞を提供する役割を担う。
注2)前頭前野視床、海馬の連絡が、乳頭体上核により制御される。
5)感覚情報への「扁桃体」(内の記憶情報)による「価値情報」への選別
扁桃体には、味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚などあらゆる種類の感覚情報が、嗅球や脳幹から直接的に、そして視床核を介して間接的に入力される。その生の「感覚情報」は、「扁桃体」の基底外側複合体(特に外側核)へと送られ、そこで当該感覚情報が過去記憶と関連付けられる(照合される)。外側核に既に刷り込まれている情動的経験の記憶が、扁桃体の中心核との接続を介して、例えば恐怖行動(情動反応・行動)を引き起こす。中心核は、身体的な、硬直や呼吸と脈拍の増加、ストレスホルモンの放出などの多くの恐怖行動の産生に関係している。
感覚情報⇒扁桃体(外側核:照合機能⇒情動記憶⇒中心核:反応スイッチ)⇒情動反応
注)嗅球は、大脳辺縁系の一部で、匂いは嗅球へ伝達し、更に大脳の嗅覚野へ伝え、そこで認識される。
注)扁桃体は、大別して主核(外側基底核基底核)とそれを囲む発生学的に古い亜核(背側に中心核、背内側に内側核、内側に皮質核)から成る。
◎瞬間的、反射的に反応した生得的自動的な生体反応は、後から来る、大脳新皮質で認知された高次・多角的状況情報に基づいて、益(報酬性)か害(嫌悪性)であるかが環境適応的に再度判断され修正更新される。
つまり、過去の記憶情報にのみ基づく初期的情動反応が、(梨状前皮質、嗅内野(28野)、海馬台、前帯状皮質(24野)、側頭葉、前頭前
野という)大脳新皮質経由の高次情報(メタ認知)に扁桃体基底外側核で出合うことによって上書き保存される。そのことで、扁桃体の記憶情報は更新される。
◎しかし、逆に学習される出来事の後の情動の喚起が強いほど、その人の持つ過去の出来事の記憶の保持が維持強化される。他方、冷静に知性的に反省すれば、記憶情報は上書き更新される。
参考)細胞膜によるイオンの選別

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