帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (7)帯状皮質の障害と症状 1-2)「前帯状皮質」と症状 1-2-4)強迫性障害

帯状皮質って中間管理職なのか
(7)帯状皮質の障害と症状
1-2)「前帯状皮質」と症状
1-2-4)強迫性障害
◎「強迫性障害」では、自分でもつまらないことだとわかって(認知)いても、そのことが頭から離れない、わかっていながら何度も同じ確認を繰り返してしまう。このように「意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考え」を「強迫観念」、ある行為をしないでいられないことを「強迫行為」という。例えば、不潔に思えて過剰に手を洗う、戸締りなどを何度も確認せずにはいられないなど。
注1)社会生活では、社会的に適切な行動をとるための検出機能をもつ「眼窩前頭前野」(意志)、行動の「モニタリング」と「調節」に主要な役割を果たす「前帯状皮質」、辺縁系(ボトムアップ型欲求)や前頭葉(トップダウン型制御)からの入力を受ける「ゲート機能」(交通整理)を有する「尾状核」、入力された情報に対する「フィルター機能」(取捨選択)を持ち皮質への投射(ボトムアップ)を行う「視床」など、各々の部位が、連携しながら円滑な行動の遂行を担う。
前頭葉領域(眼窩前頭前野)を主とした活性化に伴い、そこからの入力を振り分ける「尾状核」において制御障害が生じ、視床への抑制性の制御が弱まる。その結果ボトムアップ型「視床」とトップダウン型「前頭眼窩部」の間で相互活性(連続シーソー:上下運動)が生じ、強迫症状が維持、増幅されることで強迫性障害が発生する。
注2)尾状核は、脳の中心付近、視床の両側に存在する。尾状核被殻線条体(新線条体/背側線条体)を形成する。
参考)無麻酔動物で「帯状皮質を刺激」すると、「活動停止反応」が生じる。この反応は、「他の運動を急に停止し、注意や驚きを表し、頭や眼を反対側に動かす」という一連の行動を起こす。その動物は、刺激されている間ずっと「警戒状態」にあり、「外界からの刺激に反応」する。一般に無麻酔のネズミ、ネコ、サルなどの皮質下構造を刺激すると、定型的な自己刺激反応を起こす。
◎「強迫性障害」の患者では、前帯状皮質におけるグルタミン酸活動レベルの不自然な低下と、他の領域での過剰なグルタミン酸活動レベルの上昇が見られる。この領域(前帯状皮質)が強迫性障害と関連している。
◎背側帯状皮質前部(24野)および後部帯状皮質(31野)の灰白質(神経細胞本体層)の体積が、強迫性障害者では健常対照群に比して有意に減少している。帯状皮質に加え島皮質と尾状核での灰白質体積が有意に減少している。
注1)「グルタミン酸」は、中枢神経系において主要な「興奮性神経伝達物質」であり、記憶や学習などの脳高次機能に重要な役割を果たす。しかし、グルタミン酸の神経刺激が過剰に起こると、神経細胞が興奮しすぎることで刺激に耐えられなくなり、自ら死ぬことを選ぶ。
注2)強迫性障害や薬物濫用の患者など、動機の生成過程に障害があると考えられる患者は、前帯状皮質に通常より強い活動がある。
◎前帯状皮質の前部(「25野32野」)は、強迫性障害心的外傷後ストレス障害、依存症といった広範な「不安障害」に関連する。
注1)「依存症」とは、快情動を生じる物質(薬物、アルコールなど)の摂取や行為(買物、食物、賭け事など)などを繰り返し行った結果、これを求める耐え難い欲求が生じ、これらを追い求め、これらがないと不快な症状を生じてしまう状態、である。
注2)「不安障害」とは、不安や恐怖の感情が、日常生活に支障をきたしてしまう程に、普段の状態とは異なって過剰に付きまとってしまっている状態、である。
◎前帯状皮質の前部は、認知と情動の中継地点として機能する。
疑問)前帯状皮質前部が、認知と情動の中継地点として機能するが、後帯状皮質も同じ機能を有するが、何か違いがあるのだろうか。
解)前帯状皮質が、認知と情動の中継地点として機能するのは、あくまで認知機能が前頭葉で担われている場合であり、後帯状皮質が認知と情動の中継をするのは、側頭葉・頭頂葉後頭葉での認知機能に対してである。
精神疾患の治療として24野(背側前帯状皮質)に限定した摘出手術が行われ、強迫性障害、不安障害、攻撃的な性質が改善される一方、人格全般、知性は影響を受けないとされてきた。