帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (7)帯状皮質の障害と症状 1-1-2)自閉症 1-1-2-2)「共感」に関わるネットワーク(その二)

帯状皮質って中間管理職なのか
(7)帯状皮質の障害と症状
1-1-2)自閉症
1-1-2-2)「共感」に関わるネットワーク(その二)
◎共感に関連の深いネットワークは4つ挙げられる。
1)エモーショナルネットワーク(情動性ネットワーク)
2)セイリエンスネットワーク(顕著性ネットワーク)
3)メンタライジングネットワーク(心の理論)
4)ミラーニューロンネットワーク
1)エモーショナルネットワークとは、扁桃体側坐核視床前頭前野眼窩部など、「ヤコブレフ」の「情動回路」を中心としたネットワークであり、「感情情動反応」をもたらすネットワークである。これらの部位に機能低下があると、感情そのものの反応に障害が生じるため、必然的に、共感的反応応答にも障害が起こる。
もうひとつの情動に関連する神経回路は、扁桃体-視床背内側核-前頭前野眼窩部-側頭極-扁桃体という基底外側回路である。
注)「ヤコブレフ」「情動回路」=基底外側回路とする考え方もある。
2)セイリエンスネットワークとは、帯状皮質前部および島皮質前部からなるネットワークである。ホメオスタシス(恒常性維持)状態から逸脱した際に敏感に反応し、その回復を促す役割を担う。心理的な痛みに対しても島皮質が関与する。
3)メンタライジングネットワークとは、「自己や他者の心の世界を推論」するメンタライジング(心の理論)に関わるネットワークであり、前頭前野内側部・帯状皮質前部、側頭頭頂接合部、上側頭溝後部などから成り立つ。
4)ミラーニューロンネットワークとは、動作の理解や表出に関わるネットワークであり、観察をもとに、それを真似ることによる学習を実現する。脳部位的には、頭頂葉下部(上側頭溝、下頭頂小葉)、運動前野腹側・前頭葉下部(ブローカ野)などの部位から成り立つ。
◎動作を真似る「行動的共感」には、主にメンタライジングやミラーニューロンのネットワークが関わる。例えば、喜び表情の形成には、主に目尻を下げる筋肉である眼輪筋や、口角を上げる筋肉である大頬骨筋が関わるが、喜び表情の人物の顔を観察することにより、観察者自身の眼輪筋や大頬骨筋も同様に動く。このような「表情模倣」は、他者と感情を共有する上で重要な意義を持つ。観察者は「自分自身の筋肉の動きを参照」することによって、相手の表情の「意味を理解」したり、相手に対する共感の感情を経験(共有)したりする。逆に顔面筋の動きを阻害することによって、表情認知の成績が低下する。とはいっても、表情認知に表情模倣が必要不可欠なわけでもないが。
◎「身体的共感」(あくびがうつる、涙を誘う)には、主に1)エモーショナルネットワークや2)セイリエンスネットワークが深く関与する。例えば、困難に陥った他者を見かけた時、自分自身がその時その困難を直接経験していないにも関わらず、その他者と同様につらい感情を抱き、他者が困難に陥っている状況を把握できる。これは共感であり、「向社会的行動を動機づける」きっかけでありえる。他者の不快経験を見ている者の心にも「不快感」が生じることを「負の共感」という。これは「痛覚情報」を処理する脳領域が負の共感の神経基盤となっている。「前帯状皮質や前部島皮質」といった痛みの情動的情報の処理に関連する脳領域(セイリエンスネットワーク)が痛みの共感にも関与している。
◎感情移入する「主観的共感」には、これらの4つのネットワークがすべて関わり、統合的に共感の主観的経験が形成される。他者が痛みを受けている様子を具体的に「視覚的に観測」する場合には、脳の痛覚領域に加えて4)ミラーニューロンネットワークも共起する。他方、物語を聞くなど(教示)によって抽象的に他者の痛みを喚起される場合には、3)メンタライジング・ネットワークが痛覚領域とともに共起活性化する。運動や感覚、痛みのような「身体的な」経験だけでなく、より抽象的な心的状態の表象(メンタライジング・イメージ化)においても、脳活動においては「自己と他者の共通表現」という特性が現れる。具体的には、前頭葉後頭葉の内側部が、他人の意図や信念、あるいは性格などを考える際に活動する。一方で、我々が自分自身の心情や性格について内省したり、過去や未来の出来事をイメージするときにも、ほぼ同じ部位が中核的な役割を果たす。3)メンタライジング・ネットワークは自己と他者に共通して、心象の処理に関わる。
注)心象と心像。心象は、心に浮かんだ映像や感覚的なもの。心像は、「過去の経験や記憶などから」心に浮かんだイメージ。
◎なお共感は、注意の焦点を同時に複数に向けるような心の状態の時に成立する。共感を反映する脳活動が状況や個人によって変動する。また「共感が認知的評価にも左右」される。例えば、他者が傷つけられる状況を、「麻酔が効いているので痛くないんだよ」と、説明された上で状況を観察すると、「主観的な評定」においても「脳活動」においても、痛みの共有反応が明らかに低下する。つまり「知性化」は有効である。利害関係、対象との親密度、対象と自己との相似性などの諸要因が、共感的な神経活動を変動させうる。
注)「知性化」とは、自分が関わる辛い出来事をあたかも他人事のように客観的に突き放して捉えることによって、その出来事から心理的な距離を取って、状況全体を高所大所の視点から冷静に分析することである。