帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (7)帯状皮質の障害と症状 1-1-2)自閉症

帯状皮質って中間管理職なのか
(7)帯状皮質の障害と症状
1-1-2)自閉症
1-1-2-1)自閉症とは
◎「自閉症」とは、コミュニケーションが苦手で、興味や行動面での強いこだわり、相互的な対人関係の障害などを特徴とする「発達障害」である。
注1)コミュニケーション能力とは、対人間での情報共有や意思の疎通をスムーズに行う能力をいう。
注2)「発達障害」とは、生まれつきの「脳機能の発達の偏り」による障害である。幼児のうちから症状が現れてくることがほとんどである。より具体的に述べると、発達障害は、精神疾患や家庭環境ではなく、脳の情報処理や制御などの「機能の偏り」を原因として、「社会的場面」での学習、言語、行動等においてうまく機能しない状態をいう。
自閉症者では、顔や表情の情報処理の神経基盤である「紡錘状回」と「扁桃体」とで低活動化が見られる。
注1)紡錘状回の顔領域は、顔の像によって選択的に活性化する。怖がっている顔の像によって扁桃体も活性化する。扁桃体は、感情情報の処理において重要な役割を果たす。
注2)扁桃体は、本人が、怖がっている顔を意識的に知覚していなくても、あるいは怖がっている顔に注意を払っていなくても、自動的に(無意識裏に・意識下で)活性化する。「扁桃体」の活動が、ボトムアップ型「無意識的過程」によって起こるのに対して、前帯状皮質の活動は、情動的な刺激に対するトップダウン型「意識的注意」により上昇する。
参照)「顔面形態表情の認知」に関しては、「6)後帯状皮質」の「3)後帯状皮質の機能」の「4)顔面形態表情の認知」
1-1-2-2)「共感」に関わるネットワーク(その一)
自閉症に関わる重要な機能として、「共感能力」と「社会性」がある。ここでそれら二つについて述べていく。
◎「前帯状皮質の機能不全」は、自閉症統合失調症などにも見られる「共感能力の低下」を伴う。
参考)ラットも人と同じように他者を傷つけることを嫌がる。所がラットの脳の前帯状皮質にあって共感を感じる「ミラー・ニューロン」を不活性化させると、同種を傷つける行為を嫌悪する「危害嫌悪」が働かない。自分以外の個人の「感情や経験を共有」する能力である「共感」は、他者を傷つける行為を、あたかも自分が傷つけられているかのような視点で想像することを可能にし、それが負の感情を引き起こす。
◎共感とは、「他者の感情状態を共有」する精神機能である。具体的には、友達がつらい表情をしている時、相手がつらい思いをしているのだということが分かる(認知)だけでなく、自分もつらい感情を持つ(感情の共有・「情動伝染」)のが共感である。
注1)認知型共感は、トップダウン型共感で、意志によって入り切りが可能であるが、感情共有型共感(情動伝染)は、ボトムアップ型共感で入り切りは困難である。
注2)人間の脳は、150人程度の仲間内(内集団)を相手にするように設計されていて、共感が及ぶ範囲は血縁など狭い範囲に限定される。内集団内での共感では、現代社会が抱える問題(貧困や格差など)は解決できない。それへの解決としては、知的に認識した上で適切な判断をするトップダウン型認知的共感が求められる。
注3)共感の認知的な側面に関与する神経ネットワークは、自伝的記憶の想起時に活動する領域(側頭葉内側部と内側前頭前野)と共通である。
注4)自伝的記憶を語ることは、1)親密さを生み出しそれを維持する機能、2)他者へ助言や情報を伝える機能、3)他者から共感を引き出したり他者へ共感する機能などの社会的機能を持つ。
◎「身体的痛み」や「社会的痛み」などへの共感は、1)自分自身の痛みなどの処理に関与する領域(顕著性ネットワーク)「島皮質前部」と「帯状皮質前部」と、2)行動面での理解に関わる領域「下前頭回弁蓋部など」、3)メンタライジング(心的状態の推測に関与する領域)に関わる「前頭前野背内側部」、「側頭-頭頂接合部」、「楔前部」などを活性化させる。それらの脳部位は、共感の重要要素「他者との感情共有と他者の感情への理解」において重要な役割を果たす。
注)体性感覚野と帯状皮質前尾側部は、自分の痛みでのみ活性化した。