帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 13)「予期」「不確実性」13-1)「予測」(予見・予期)

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
13)「予期」「不確実性」
13-1)「予測」(予見・予期)
◎未来について考えている時と過去のことを想い出している時、つまり「記憶」と「予見」とには共通する、前頭葉から頭頂葉にかけての大脳皮質の「腹内側ネットワーク」が、両方(記憶と予見)に深く関わる。
参照)「*1帯状皮質(個別機能)」の「12)「外向性(背外側システム)と内向性(腹内側システム)」」
◎幼児が未来の計画を立てられるようになるのは、過去の経験を語れるようになる時期と一致する。過去のない者には未来がない。時間概念が身につくことと重なる。
注)時間間隔への注意と時間間隔の符号化(記憶保持)は右半球「側頭頭頂接合部」が、時間判断は右半球「下前頭前野」が司る。この脳部位がしっかり機能するには時間がかかる。ところで一般に、時間に関わるのは、左半球と言われているが、この矛盾はどう解きほぐせるのだろうか。
◎予測は、意識的段階だけでなく、ほぼ全ての無意識的段階でも身体機能段階でも行われている。例えば、目(網膜)から新しい視覚情報が入って来たとき、目から視床にその情報が入力されるよりも前に、脳(大脳皮質)は、過去の記憶情報を元に、独自の(仮想)現実を、予測モデルとして作り出す。その予測モデルが、記憶情報を持つ視覚野から中継地視床に向けてトップダウン(遠心性)情報として出力される。中継拠点である視床は、目が報告して来るボトムアップ(求心性)情報と、脳が作り出し送り届けて来たトップダウン予測モデルの差異だけを視覚野に送り返す(フィードバックする)。
その時、予測モデル(トップダウン情報)と実際のボトムアップ情報との差異が大きい場合には、無意識的処理では対処仕切れないので意識が立ち上がる。つまり、意識は大きく疑問符が付く情報に向けて起動する。
だから、目が報告している情報と予測モデルに差異がほとんどない場合には、目からのボトムアップ情報は、実はほとんど脳(大脳)へ送られない。しかもこれら全て一連の過程は無意識下で処理される。
言い換えると、目からの入力画像の解釈が終了してから次の物体の認識に進むのではなく、最初期から既に記憶からの(予測)情報を生成しながら、画像の解析解釈と物体検索を同時並行的に協調して行なうことで柔軟な物体認識を成し得ている。だから、記憶がある所、必ず予測が行われている。無意識の予測は、意識とは無関係に自動生成される。
◎脳は、記憶内容(過去の経験)への差分(不足、欠如)や(これから来る経験と過去の経験との)誤差に強く反応する。差分や誤差が大きいと不快・不安・不信・恐怖を生み出す。故に必ずといって程に差分や誤差を見つけ出す為に予期・予測(時に期待)が行われる。報酬に特化した差分や誤差の予測・発見・報告がドーパミン神経の役割である。全般的な差分や誤差を見つけ出す役割を前帯状皮質が担う。前帯状皮質の働きは無意識的であるが、差分や誤差が予想外に大きければ、意識が無意識に取って代わって起動する。
参考1)ドーパミンは、正負の報酬予測誤差を正負両方向的に符号化している。「線条体」や内側前頭前野も報酬予測誤差を反映した活動を見せる。「外側手綱核」ではドーパミン神経とは逆に罰の予測に関連して負の報酬(=罰)予測誤差を反映する活動を示す。
参考2)個人内予測だけでなく、社会的価値の評価においても、予測誤差の原理が重要な役割を果たす。例えば、将来の自己の「行動」が他者の目にどう映るかを予測する。そして実際に行動をした後の他者からの「評価」を想像して脳内表示し、予測との比較を行う。この予測誤差が正の値であれば「自尊感情や誇り」を体感し、予測誤差が負の値であれば、「落胆や羞恥心」を体感する。こうして、他者の評価が(社会的)報酬(と罰)となる。これ(他者からの評価)は、自己利益よりも公的利益を優先する根拠と成り得る。
◎「快」刺激を「予測」している時には、左背外側前頭前野、左内側前頭前野、右小脳の活動が認められる。逆に、「不快」刺激を「予測」している時には、右下前頭前野、右内側前頭前野、右扁桃体、左前帯状皮質、および両側の視覚野(左右後頭葉、右楔部、左舌状回)の活動がみられる。
13-2)島皮質と予測
◎島皮質領域も予測に大きく関与する。この階層の予測とは、将来(未来)起こりそうなある「出来事」について、前もって推量する行為、である。
◎島皮質は、前頭葉(認知的諸機能)、頭頂葉(身体状況・注意)、側頭葉(言語・聴覚)、帯状皮質(感情・認知)、扁桃体(情動・感情)、視床(感覚情報)など幅広い脳領域と双方向的な神経連絡を持つ。このように島皮質は、幅広いネットワークを持っているため、使用動員できる機能も豊富である。例えば、自分の身体状態の意識化、運動・認知、意思決定、感覚知覚・情動など非常に多くの機能に関与する。
◎島皮質は、体の全組織の地図を持つ。島皮質に限らず脳の様々な階層で、感覚器官から入力される刺激に受動的に反応するのではなく、入力される刺激を予測する内的予測モデルを構成し、それによる予測と入力された実際の感覚信号を比較して、両者のずれ(予測誤差)の計算に基づいて、知覚を単に受容するのではなく、あらかじめ能動的に産み出し、活用する。
注1)身体状態が、恒常状態(ホメオスタシス)から逸脱すると、前帯状皮質、両側島皮質、視床、脳幹といった内受容感覚に関わる部位が活性化する。
注2)内臓感覚情報は、延髄の孤束核、橋の(内側)結合腕傍核、視床、島皮質などで処理される。なお内側傍小脳脚核は、レム睡眠とノンレム睡眠の切り換え制御する。
◎副交感神経系と交感神経系との双方の情報は、脳幹の傍小脳脚核(=結合腕傍核)に送られ、ここで身体の生理状態の統合が行われる。その後、視床の内側核と腹内側基底核とを介して、前帯状皮質および島皮質に送られる。前帯状皮質と島皮質は、中脳水道周囲灰白質など脳幹のホメオスタシス関連領域への制御を行うことで身体状態の調整に関与している。島皮質には体部位表現があり、それらの情報すべてを統合したもっとも高次な情報は右島皮質前部に表現されている。
◎例えば、オリンピック選手のように極度に発達した島皮質では、身体で次の瞬間に起きる状況に対して、信じられないほど正確な予測を行うことができる。この予測のおかげで、脳のほかの領域は、あらかじめ筋肉をより効果的・効率的に動かす準備をしておくことができ、その結果、島皮質の能力の高い選手は、ほかの人より速く泳いだり、長い距離を走れたり、高くジャンプすることができる。
参照)「島皮質」に関しては、「12)島皮質」

*1:5-2