帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 13)「予期」「不確実性」 13-3)「不確実性」

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
13)「予期」「不確実性」
13-3)「不確実性」
◎時は、刻一刻と常に休むことなく前(未来)に、即ち「未知」に向かって進むので、事を計画的に進めるためにはどうしても「予測」をする必要を感じる。その(未来に対する)予測は必然的に「不確実性」を伴う。ということで、前帯状皮質吻側腹側領域(25野32野)は、多くの価値評価システムからの入力を受けており、環境内での価値変化、価値競合があれば、それを検出し、その解決のために注意を喚起する。
帯状皮質は 、行為と結果の随伴関係が「変化する時」に活性化する。それとともに、どの反応を選べば報酬(良い結果)が得られるかが「不確かな状況」においても活性化する。下位階層であればあるほど、情報や反応が定型的固定的であるが、逆に上位階層であればあるほど、柔軟性・不確定性が増す。
◎ところで、「柔軟性」とは、その場や状況に応じて行動や機能などを素早く変化して対応することができる、臨機応変な性質・態度である。不確定・不確実な状況では、その柔軟性が必要不可欠である。それをもたらすのが、「前帯状皮質」である。固定的定型的な無意識に対して、臨機応変な柔軟性をもたらすのが「意識」である。ということで、前帯状皮質と意識は、相性が良い。
注)随伴関係:ある出来事Aに付随して出来事Bが生じた場合、しかもAとBとに因果関係(原因結果の関係)がない時には、両者に随伴関係があると言う。
◎「眼窩部」と「前帯状皮質」は、反応の選択に対し、罰(負の価値)が随伴するか、 報酬(正の価値)が随伴するかが不確実な状況(複数の反応の内 、どれを選択すれば有利なのかが分からない状況)において活性化する。つまり、「不確かな状況を注視し続ける」機能を持つ。
◎ある行動によって好ましい結果(報酬・成功・好き・良・善)がもたらされると、同じ状況下でその行動を選択する頻度が強められる。これを「強化」といい、これと同じような学習様式を「強化学習」という呼ぶ。これは不確定不確実を減じる方策である。
13-4)不確実性を減じる手段としての学習(体系化)
◎学習に関して、小脳は、1)「教師あり学習」、大脳基底核は、上で述べた2)「強化学習」、大脳皮質は、3)「教師なし学習」にそれぞれ専門化した組織である。
1)小脳が行う「教師あり学習」は、問題(入力)と答え(出力=教師信号:正解:フィードバック情報)が同時に示される学習法である。例えば、花を覚える時、画像と正解(バラ)が同時に示されて学習する。別の例として、自転車乗りの練習で失敗した時の感覚が誤差信号=「教師情報」となり、失敗事例が除去(消去)されて最終的に「正解事例だけが残り積み上がり」、その結果正しい方向にどんどん修正され学習が進む。この場合、正解=報酬、失敗=罰と見なすと、強化学習ともいえる。
大脳基底核が行う2)「強化学習」は、ある行動を取った場合の結果の良し悪しの「評価(報酬・罰)が与えられ」て、「報酬を最大化」するよう、逆に「罰を最小化」するように「試行錯誤を繰り返す」学習方法である。これも教師あり学習ともいえる。
大脳新皮質が行う3)「教師なし学習」は、入力・情報・データだけ与えられ、不確実性(エントロピー)を減じるために、そこに何らかの「規則性(アルゴリズム・法則)を見出だす」(「発見)学習」法である。脳には、規則性を見出だすための「自動組織化機能」が生得的に備わっている。脳(そもそも宇宙)には、自己組織化能力が備わっている。例えば、人の幼児に、特定言語の要素(入力・情報・データ)をふんだんに与えれば、脳の自己組織化機能によって、音素、単語、文法を、自動分類、自動体系化して行く。チョムスキーは、それを生得的機能だという。ピアジェは、人の幼児には、生得的機能として、認知能力があり、経験(データの蓄積)を積むに従って、認知能力が自動的に発展(階層を上へと自発自展)すると実証的に証明した。
参照)「*1前書き」の「0-1-3)脳(宇宙)の基本原理」
注)「自己組織化」は、複数の要素からなるシステムが、時間とともに、何らかの意味で、自発的に、秩序化する過程をたどる事象に用いる。生物学、生物物理学(生命システムを物理学と物理化学を用いて理解する)、物理学、物理化学、超分子化学(個々の分子を超えた複雑な化学物質の化学的、物理学的、生物学的性質を理解する)、材料科学、ナノテクノロジー脳科学情報科学、生産工学など、実に様々な分野で自己組織化という言葉が使われる。
参考1)文化人類学者の川喜田二郎は、データ・資料をまとめるために「KJ法」を考案した。KJ法は、右脳優位での、データ・資料の分類法・体系化法である。
参考2)言語学者チョムスキーは、人間には生得的な言語機能が備わっているという。彼の唱える「普遍文法」(すべての自然言語に共通する言語機能の初期状態)は、外的言語データに出合うと、そのデータを基に、人間が生得的に有する言語機能(自己組織化機能)により、言語知識の安定状態(体系化)に到達するという。
参考3)心理学者のピアジェの認知発達理論は、人の知能認知の発達を、成長過程の中で知識習得と経験を重ねたことによって、普遍的な順序で経験・展開していくという。
参考4)化学者物理学者のイリヤプリゴジンが提唱した「散逸構造」とは、エネルギーが散逸していく流れ(エントロピー)の中に、自己組織化のもと発生する、「定常的な構造」をいう。「エントロピー増大の法則」と「自己組織化」とは相反する原理であるが、宇宙は、そのような相反する二項が一組に成って成り立つ。哲学者西田幾多郎は、それを「絶対矛盾的自己同一」と言った。西欧では、二項対立とか二律背反とかいう用語が使われる。
◎学習は、不確実性(エントロピー)を減じるために、予測精度を上げるために、素材を体系化するために行われる。つまり、学習は、より良き未来を目差して営まれる。宇宙は、自動組織化機能(能力)を使って、様々な素材を用いて、様々な分野を体系化をしながら、進化している。

*1:0-1