帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 10)「扁桃体」(その一)

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
10)「扁桃体
10-0)扁桃体とは
扁桃体は、「側頭葉内側の奥」に存在する、アーモンド形の神経細胞の集まり(神経核)で、左右半球に一つずつ存在している。扁桃体扁桃核ともいう。
注)扁桃体は、形が似ていることで、植物のナッツ(アーモンド)の日本語名から、名付けられた。
扁桃体は、異なる機能的特徴を持った複数の神経核を含む。大別して、1)「主核(外側基底核群)(外側核、基底核、副基底核)」と、それを囲む発生学的に古い皮質2)「内側核群(背側に中心核、背内側に内側核、内側に皮質核)」から成る。
◎外側核に刷り込まれている情動的経験の記憶が、扁桃体中心核との接続を介して恐怖行動を引き起こす。「中心核」は、硬直や呼吸と脈拍の増加、ストレスホルモンの放出などの多くの恐怖行動(反応)の産生に関係する。
◎恐怖「刺激情報」は、「扁桃体」から直接視床下部や脳幹の「自律神経」中枢へ送られて「交感神経反応」を引き起こす。より詳細に言えば、扁桃体から、1)視床下部に対しては交感神経系の活性化信号を、2)視床網様体核に対しては反射亢進の信号を、3)三叉神経と顔面神経には恐怖の表情表現の信号を、4)腹側被蓋野(ドーパミン)、青斑核(ノルアドレナリン)、外背側被蓋核(アドレナリン)には、それぞれ個別ホルモンの放出の信号が出される。
扁桃体には、味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚などあらゆる種類の刺激が、嗅球や脳幹から1)直接的に、そして視床(核)を介して2)間接的に入力される。更に、3)大脳皮質内で処理された情報および海馬からのトップダウン情報が扁桃体にフィードバックされて入って来る。それら感覚情報は、扁桃体の基底外側複合体(特に外側核:記憶情報保存庫)へと送られ、そこで刺激の記憶と関連付けられる。
注1)嗅覚刺激は嗅球から、味覚刺激は脊髄・脳幹からともに直接、扁桃体の皮質核・内側核群(系統発生的に古い部分)に入力される。視覚・聴覚・体性感覚は、外側基底核群(新しい部分)に入力する。
注2)上記3)のトップダウン情報は、梨状前皮質、嗅内野(28野)、海馬台(海馬旁回近傍)、前帯状皮質(特に24野)、側頭葉、前頭前野を経由して、扁桃体の基底外側核(外側基底核群)(主核)に至る。後者3)フィードバック情報は、前者1)と2)の皮質下からの入力に比べて時間的に遅れて来るが、多くの情報が集約されているのでより適正かつ精緻な情報に成長している。大脳皮質で認知された高次の情報に基づいて、益(報酬性)か害(嫌悪性)であるかが、過去の経験からだけでなく、その時点での環境・状況を含めた、より適応的に、扁桃体で改めて判断され修正される。
扁桃体は、これらの「感覚刺激」の1)2)「価値評価」と3)「意味認知」に深く関わっている。
10-1)「前帯状皮質」と「扁桃体」との「拮抗的」な関係
◎前帯状皮質扁桃体とは、共に「情動」「認知」「表出」に関わる。正(ポジティブ)の情動(例えば、喜びなど)には前帯状皮質が活性化して、その時扁桃体は抑制される。逆に、負(ネガティブ)の情動(例えば、怒り、悲しみなど)には前帯状皮質が抑制されて、扁桃体が活性化される。というように、両者の働き(活性)には「拮抗的な関係」がある。扁桃体は、特に不安や緊張、恐怖反応において重要な役割も担う。
◎「扁桃体」の活動が、「無意識的過程」(ボトムアップ情報)によって起こるのに対して、「前帯状皮質」の活動は、情動的な刺激に対する「意識的注意」(トップダウン処理)によって上昇する。
疑問)前帯状皮質は、正の感情にも負の感情にも関わるという説もある。また、両者(前帯状皮質扁桃体)が同時(一緒)に活性化するという説もある。左右半球との拮抗ではないのか。
解1)左前頭部の脳活動は肯定的(ポジティブ)感情に関連している。恐怖や回避反応には脳の右前頭部がより活性化する。不快では左右の前頭部および主に右脳において広範囲に脳活動が増加する。
解2)扁桃体の側性に関しては、左扁桃体と前帯状皮質との間の機能的結合は、恐怖の主観的評価に比例して増加したが、右扁桃体と前帯状皮質の間では増加しなかった。
◎拮抗とは逆の解説であるが、前帯状皮質は、恐怖の程度に応じて扁桃体との結合が増強する。具体的には、不安を感じやすい傾向にある人は、扁桃体外側基底核と前帯状皮質膝下野(25野)との機能結合が、恐怖に関連した記憶の形成と促進に特異的に関与する。例えば、恐怖をもたらす感覚情報は、扁桃体の基底外側複合体、特に外側核へと送られ、そこで過去の刺激の記憶とが関連付けられる。既に述べたことだが、外側核に刷り込まれた情動的経験の記憶が、扁桃体の中心核との接続を介して恐怖行動を引き起こす。