帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (10)帯状皮質運動野 4)帯状皮質運動野の機能 1)報酬

帯状皮質って中間管理職なのか
(10)帯状皮質運動野
4)帯状皮質運動野の機能
注)帯状皮質運動野に関する記述は、動物実験によって得られた事実が多い。つまり、人に関するデータでない可能性もある。
1)報酬
参照)「報酬」に関しては、「5-2)前帯状皮質」の「4)「報酬」」
報酬系回路は、「中脳辺縁系を中心とするドーパミン神経系」(A10神経系)からなり、腹側被蓋野(中脳)から側坐核に投射する。だが、腹側被蓋野は、腹側線条体(側坐核を含む)のみならず、前頭前野(特に眼窩前頭前野)、前帯状皮質扁桃体、海馬へも投射している。
参考)「扁桃体ドーパミン」の関係。
同じストレス下や環境においても、恐怖や不安の感じ方には個人差があり、同様に扁桃体の活動にも個人差がある。この個人差の一因として、扁桃体におけるドーパミンD1受容体密度の高低の個人差が関連する。扁桃体では、このD1受容体を介したドーパミン神経伝達が恐怖や不安といった情動反応に中心的な役割を担っている。なおドーパミン受容体は、D1、D2、D3、D4、D5受容体と5種類あり、その内で興奮性(アクセル)を担う受容体は、D1、D5受容体で、抑制性(ブレーキ)を担う受容体は、D2、D3、D4受容体である。更には、ドーパミン貯蔵容量と情動処理の個人差には関連がある。悲しい絵を見ると、ドーパミン貯蔵容量の大きい人ほど扁桃体と前帯状皮質の活動が高まる。つまり、扁桃体へのドーパミン発射は、「GO」サイン(ONスイッチ)であるし、アクセル(促進剤)でもある。ドーパミンの働きについては、快感、意欲、学習、記憶、集中力など種々(運動系・認知系・報酬系など)あるが、これは、作用・惹起・促進する先の脳部位の持つ機能に依存する。例えば、海馬での神経新生(新規記憶素)は、海馬ドーパミン量の変化によって影響を受ける。ただし、ドーパミンにはその受容体の種類によっては抑制作用もある。ドーパミン神経は、興奮性・報酬系神経のイメージが強いが、このように受容先脳部位の持つ機能に依存する。更には、ドーパミン神経は5種類に下位分類され、その内には抑制性作用の働きを持つものさえある。
帯状皮質運動野は、「報酬期待」に基づいた柔軟な行動調節に関わる。例えば、その報酬の価値づけの変更(もっと美味しそうな食べ物が見つかったぞ)があれば、それに従って柔軟に行動調節をする。具体的には、「行動」とそれにより得られる「報酬」とを「関連づけ」、得られる報酬によって行動を適切に選択制御する。
◎吻側帯状皮質運動野(32野)は、報酬結果のモニタリング(監視)に基づく行動調節・選択などの高次機能にも関与する。吻側帯状皮質運動野は、報酬結果に基づく行動調節に関わる眼窩前頭前野黒質緻密部、および腹側被蓋野との間で線維連絡を有する。また行動計画(行動文脈の利用を含む)に関わる外側前頭前野との間でも線維連絡を有る。
注)黒質緻密部は、線条体ドーパミンを送り興奮を抑制する。
◎「眼窩前頭前野」(11野12野)と「前帯状皮質」(特に帯状皮質運動野)は、「報酬」に対して、「予期」(前もって推測)を行っている。報酬がもうすぐ貰えるという期待が大きくなっていると、前帯状皮質に報酬への期待の大きさに比例して、反応が強くなる神経細胞が存在する。
帯状皮質運動野は、過去からの「報酬の履歴を記録」して、それに基づいた行動を決定する。それに対して、外側「手綱核」は、嫌なことが起こったことをいち早く検出する。「前帯状皮質」は、現在(「手綱核」によってもたらされる)ばかりでなく過去(「帯状皮質運動野」によってもたらされる)の嫌な経験を記憶して、将来の行動を適切に変える。
注)手綱核とドーパミンセロトニンとの関係
「手綱核」は、松果体と共に「視床上部」を形成し、視床の後背方に位置する。外側手綱核は、外側視床下部辺縁系淡蒼球内節、側坐核などの大脳基底核の一部、前頭葉内側部などから投射を受ける。外側手綱核からの出力投射は、主に中脳に送られる。腹側被蓋野黒質緻密部、セロトニン神経を含む外側縫線核や正中縫線核への投射が見られる。
まとめ的に言えば、手綱核は、間脳の背側に在り、大脳(大脳新皮質大脳辺縁系大脳基底核)からの多様な投射を受け、中脳のモノアミン系(アドレナリン、ノルアドレナリンドパミンセロトニンの4種類の伝達物質の総称)神経に出力することよって、中枢神経系の全体を調節する。
手綱核の内の、特に「外側手綱核」は、「ドーパミンの活動を制御(主に抑制)」する最適な位置にある。報酬が得られないときに外側手綱核が興奮し、その興奮がドーパミン神経を抑制する。このような形で、ドーパミン神経は、報酬を得るためだけではなく、嫌悪刺激を避けるための学習や動機付けにも深く関わっている。魚の場合ではあるが、危険を予測している時の腹側手綱核の神経細胞は、危険予測値に対応して活動が上下する。つまり、手綱核は、「危険予測値を表示」する。
手綱核は、それら以外にも、覚醒と睡眠、概日リズム、報酬と罰、脅威に対する逃走行動とすくみ行動、社会(対人)的な葛藤における勝ちと負け、ストレス反応など、多彩な事柄(機能的に両立しない「二項対立行動」)に関わる。セロトニンの活動をも制御する外側手綱核は、不快な状況や予想によって、悪い状況に陥ると活性化される。松果体のそばにある外側手綱核は、レム睡眠を維持しようとする機能を持つ。外側手綱核は、海馬と協調して活動する。外側手綱核の活動が、ドーパミン神経系・セロトニン神経系を介して自律神経の制御にも重要な役割を果たしている。要約すると、ドーパミンセロトニンが、「GO」(アクセル)を意味する信号を発するのに対して、外側手綱核が、上位階層からの「STOP」(ブレーキ)を意味する信号を発する。
帯状皮質運動野は、他者の行動が、自己の報酬に関わる場合には、他者の行動や報酬をも監視(モニター)する。自身が行動する際だけでなく、他者の行動を観察する際や、その両方(自他の行動)で活動する。また、他者の失敗行動の検出にも関わる。