帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (9)前帯状皮質膝前部(32野) 3)膝前部の機能 3-4)自我(自己)意識

帯状皮質って中間管理職なのか
(9)前帯状皮質膝前部(32野)
3)膝前部の機能
3-4)自我(自己)意識
◎他者の顔写真に比べて、「自分の顔」を見ている時には、右前頭頭頂領域が強く活動する。
注)「前頭頭頂ネットワーク」は、目標を達成するために合目的的に行動や思考を調整し、統合する脳の高次機能を担う。ワーキングメモリー(作業記憶)や計画、抑制、注意の配分などの認知機能と関わる。このネットワークは、背外側前頭前野と外側頭頂葉を含む脳領域から形成され、実行機能(認知制御機能)に主に関与する。頭頂葉前頭葉を連絡する脳の神経線維の束は、「上縦束」である。例えば、頭頂葉から送り込まれた感覚情報を運動前野が処理し、動作の発現と制御に役立てる。
注)2つの空間表象システム(「身体中心の空間表現」(自己中心)と「対象中心の表現」(対象中心)に関わる神経基盤)は、互いに共通した神経基盤(前頭頭頂ネットワーク)を持ち、課題要求によって空間表現を切り替えている。右半球の優位性が見られる。
◎前帯状皮質膝前部は、提示された言葉が、「自己」に当てはまるかどうかを判断する課題で強く活性化する。自己に関する知識などに対する評価に関わる。またネガティブな自己関連付けを行う際に、内側前頭前野および膝前部前帯状皮質の活動が亢進する。
注)上の「3-2)社会的認知」に、「膝前部は、提示された形容詞が、人に関わる名詞の前に来うるのかどうかを判断する課題において高い活動を示す」という記述がある。
◎自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題を行っている時には、前帯状皮質(32野:膝前部)、内側前頭前野(10野:前頭極)、後部帯状皮質(23野31野)、および楔前部(7野)を含む大脳皮質正中内側部構造の活動が増大する。自己関連付け処理時においてのみ内側前頭前野の活動が見られる。
注)大脳皮質正中内側部構造は、安静時の内省状態で活動が高まる。つまり、皮質正中内側部構造は、デフォルトモードネットワークと重なる。「自己関連」だけではなく、「他者の心的状態」を推測する際にも働く。
参考)人が「注意集中」する時に、前頭葉周辺でシータ周波数(4-7 Hz)の脳波(fmシータ波)(「前頭正中シータ波」)が記録される。サルにおける前頭正中シータ波は、運動課題を行うサルの「前頭前野(9野)」と「膝前部(32野)」に人の前頭正中シータ波に相当する脳活動が見られる。これは、「注意集中」や「精神作業」と密接に関与し、脳内メモリに関係する。 前頭正中シータ波は、精神作業に対する注意集中の維持機能や高い覚醒水準の維持機能と密接に関係する。
集中状態を、対象となる事象(事柄・出来事)に対して持てる注意のほとんど全てを分配する状態だと限定すると、「注意配分に余力」のある「アルファ波優勢時」は真の集中状態とはいえず、「全力注意状態」の「シータ波優勢時」が「深い真の集中状態」といえる。
なお「前帯状皮質の切除」は、「持続的な注意集中」に重大な障害を生じさせる事実と、膝前部(32野)に、全力注意状態を示す前頭正中シータ波に相当する脳活動があることとから、前帯状皮質は、「「意識的注意、持続的注意、全力注意の源」だと言えそうである。
参照)「fmシータ波」に関しては、「6)後帯状皮質」の「*1帯状皮質の機能」の「(3)「注意」と注意の諸相」の「参考)Fmθ波(前頭正中シータ波)」
◎主体感(主語)なしで(この行為は私の経験であるという)「所有感」(目的語)が生じている場面では、大脳皮質正中内側部構造が活性化している。逆に所有感(目的語)なしで(私がこの行為を引き起こしているという)「主体感」(主語:行為者)が生じている場面では、「前補足運動野」がそれぞれ活性化している。
注)前補足運動野は、6野内側部の前方を占める皮質運動領野である。前補足運動野は、前頭前野(特に前頭前野背外側部:46野8野、前頭前野眼窩部:11野12野)と密接な線維連絡を持ち、高次の運動制御に関わる。具体的に述べると、状況の変化に応じて適切な動作を選択し実行するためには、状況がどのように変化したかという認知、変化した状況においてどのような行動が適切かという判断、その結果選んだ行動の実行という、より意識的な一連のプロセスを必要とする。 前補足運動野と吻側帯状皮質運動野(帯状皮質運動野32野)はこうした柔軟な行動の切り替えに深く関わる。
参考1)行動を抑制する機能は、「反応抑制機能」と呼ばれる。 右側下前頭前野や前補足運動野と呼ばれる前頭葉の脳領域が、その機能に関与している。頭頂間溝領域(特に5野7野)が、下前頭前野や前補足運動野と協調しながら、 反応抑制機能を生み出す働きを連携して担う。自動(無意識)作業を抑制する気持ちを意志とするならば、それを実行する前補足運動野が、「主体感」(主語)の出所だとするのはうなづける。
参考2)イヤとかダメといった反抗的な言葉は、脳の発達によって自我が芽生えた(自己認知能力を獲得した)という証である。その自我を守ろうとして、その自我から抵抗・反抗が繰り出される。内観能力のひとつである自己認識(認知)とは、自分を環境や他の個人とは別の個人(存在)であると認識することである。
◎「線条体」は、社会的やりとりの際にも関わり、「相手の反応が自分の行動によるものであるかどうか」によって活動を変える。他者(社会)と自己の接点が、この線条体と膝前部にあるのかも知れない。両方共に、社会(他者)にも自己にも関与することを考えれば。
参照)「自己意識」に関しては、「7)帯状皮質の障害と症状」の「2)統合失調症」と「12)島皮質」の「3-2)自己意識」

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