帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (13)脳梁、交連 4)脳梁と大脳新皮質

帯状皮質って中間管理職なのか
(13)脳梁、交連
4)脳梁大脳新皮質
ここでは、頭頂葉と側頭葉について述べていく。
4-1)脳梁と「頭頂葉(特に楔前部)」
頭頂葉は、「体性感覚」、「視覚」(後頭葉)、「運動(情報)」(前頭葉)、「言語」、「空間認知」、「注意」などの多くの脳機能に関与する。その内でも、頭頂連合野は、運動視、空間視、動作イメージ(身体感覚から)の成立に必要な情報(多感覚情報)、つまり「自分」が「空間内」を「行動」するのに必要な情報を「統合」する。
注1)「頭頂連合野」とは、一次体性感覚野(1野2野3野)と二次体性感覚野(5野)を除いた、上方を上頭頂小葉(5野と7野)、下方を下頭頂小葉(39野(角回)と40野(縁上回))で構成される。
注2)一次体性感覚野(1野2野3野)は、運動に関連した情報を一次運動野(4野:中心前回)に伝えるための部位である。
注3)「二次体性感覚野」は、一次体性感覚野からの入力を受けておおまかな体部位局在が存在するが、異なる体部位と左右の身体の統合、即ち、「全身の統合」の場である。二次体性感覚野は、体性感覚情報の統合がもっとも進んだ領域である。二次体性感覚野は、運動制御に必要な感覚情報を高次の皮質領域に送り感覚と運動のインターフェースとして機能している。二次体性感覚野は、「実際の刺激」が与えられなくても「他人が触られている映像を観察」しただけで活性化する。つまり、痛みが想像できるような状況に置かれた場合でも二次体性感覚野は活性化する。要するに、一次体性感覚野は、ボトムアップ感覚情報(実際の刺激)で活性化するが、二次体性感覚野は、ボトムアップ情報でもトップダウン情報でも活性化する。
注4)「体性感覚野」は、自己が運動の行為主であると感じる「運動主体感」の形成に関与する。だが運動に関連する体性感覚情報が正常で、視覚情報が実際のものと異なる時、自己の意思で運動を行っているにも関わらず、自分で運動をしていない奇妙な感覚を感じる。ということで、二次体性感覚野(5野)だけでは自他の区別がつかない。
注5)頭頂連合野の「左」角回(39野)と左縁上回(40野)は、語彙や意味処理に関わり、音声情報と語彙意味情報との統合を担う。
◎頭頂連合野(5野と7野、39野と40野)は、私達の「周囲を取り巻く(空間)世界」がどんなものかに関する「情報を集め」、そして「認知」する働きにおいて中心的な役割をする。頭頂連合野では、「運動」のために必要となる「自分自身」(主観)と「対象物」(客観)との「相対的な空間的位置」を表現する。
◎具体的に述べると、触覚や運動感覚などの「体性感覚」は、頭頂葉体性感覚野(1野2野3野)から頭頂連合野(上頭頂小葉:5野7野)に送り込まれ、他の感覚情報の中に組み立てられて「身体部位」や「姿勢」の知覚として統合される。5野で統合された体性感覚情報(身体部位や姿勢)は、更に7野に送られて視覚情報と統合される。更には、聴覚情報や平衡感覚情報も頭頂連合野へ送られ処理される。
どのような「形状と性質の物体」が、「身体」のどこに触っているかという情報だけではなく、手足の位置やその動き、身体そのものの位置などの情報が加わるので、身体の姿勢とそこに接触する物体の関係が総体的にまとめられる。次にその情報は、7 野(楔前部)へ送られ視覚情報が加わることで、「身体と外界の空間内の相互関係」が把握される。
注)「7野」は、「視覚」が主であるが、「聴覚」、「体性感覚」、「前庭感覚」の連合野でもあり、「立体的空間知覚」に関わる。
一次体性感覚野(1野2野3野)⇒二次体性感覚野(5野)⇒楔前部(7野)⇒下頭頂小葉(39野40野)。なお「右」下頭頂小葉が「注意」、「左」下頭頂小葉は「言語理解」の中核部位である。
即ち、頭頂連合野は、多種類の感覚情報の統合と認知の場所である。集められた諸情報は、更に抽象化と概念化も進められる。
そのひとつとしての動作イメージの重要部分を占める。
その動的イメージ(動態)情報は、前頭葉運動前野(6野の外側面)に送られて、動作の企画や構成、誘導、準備など多くの過程に使われる。
注)「右」「頭頂葉内側部(楔前部、7野内側部)」は、旧知と新規の両方の場所で、自己中心的座標(主観)系とともに、他者中心的座標(客観)系における空間認知に関与する。特に、旧知の場所での自己中心的な空間認知における役割が大きい。移動に際して、新規の場所では、地図と周囲に見えるランドマークの空間的位置を参考に自己の進むべき方角を決める。同様に、旧知の場所では、脳内にある地図と周囲にあるランドマークの位置から目的地への方角を決める。
参考)アプリケーションソフトにおける「レイヤー」は、層を分けることで作業効率を高める役割を担う。作業画面の中で複数の層をセル画のように重ねる機能を担う。画像処理の際にレイヤーという仮想シートを作り、必要に応じて表示や非表示にすることで完成した状態を見ることができる。また絵(動画)や設計図の仮想的なシートも意味する。そのことで複数のシート(背景と前景)を重ねたり、別々に編集したりできる。
◎右頭頂葉内側部(楔前部)は、他者中心的な座標系と自己中心的な座標系の統合、特に他者中心から自己中心への変換に重要な役割をもつ。
注1)頭頂葉内側部(楔前部)は、前方を帯状溝辺縁枝、後方を頭頂後頭溝、下方を頭頂下溝で囲まれる領域である。7野内側部に相当し、その下方にある、31野(後帯状皮質背側部)の一部を含める場合もある。
注2)楔前部は、「頭頂葉外側部」、「前頭葉(前頭前野、運動前野、補足運動野)」、「前帯状皮質」とともに、後部にある「後帯状皮質(23、特に31野)」および「脳梁膨大後皮質(29、30野)」と線維連絡が密である。
注3)楔前部は、後帯状皮質の31野と隣接する。
注)「上縦束」は、前頭葉頭頂葉を連絡する最も大きな大脳の外側系の神経線維束である。上縦束は背側から上縦束I、II、 III に分けられる。その内で上縦束IIは、尾側頭頂葉と背外側前頭前野を、上縦束IIIは、縁上回と腹外側前頭前野を連絡する。これらの上縦束の最も重要な役割は視空間認知機能である。
◎「頭頂葉外側部」は、周囲に見える対象物の空間的位置の認知に関わる。頭頂葉は、多数の感覚を統合する。前頭葉では、注意の移動を運動出力に変換する役割を持つ。それ故に、前頭葉病変では運動的探索の側面に、頭頂葉病変では感覚と表象的側面に無視が現れやすい。別の面からいうと、頭頂葉は、視覚と体性感覚を統合して、身体周囲の刺激に適切に反応するための情報を、「前頭葉の運動関連領域に提供」する。
◎頭頂連合野(5野7野39野40野)を損傷すると、描画において点と点を結ぶことができなかったり、見ている図形を模写できなかったりする。しかし、これは図形を描く能力(筆記具を操作する筋肉的能力)そのものがなくなったわけではない。というのは、記憶している図形を元にした場合には描くことはできる。要するに、トップダウン(完成した記憶情報依存)式描写はできるが、ボトムアップ(写生:部分情報を統合していく実写・写生)式描写ができないことを意味する。言い換えると、過去の記憶情報に頼って行動できるが、外からの生の感覚情報に頼っては行動できないということである。外からの情報を受け取り統合する脳部位の機能不全である。
◎「右楔前部の安静時活動が低い」ほど、「主観的幸福得点が高い」ことが示された。つまり、より強く幸福を感じる人は、この領域の活動が低いことを意味する。逆から言えば、右楔前部の活動は、否定的な自己意識や、心の迷いや、執着する心に関係する。これらの心の働きが弱いことが幸福感の基盤となる。また、右楔前部と右扁桃体の機能的結合が強いほど、主観的幸福得点が高い。
疑問)「右楔前部の安静時活動が低い」ほど、「主観的幸福得点が高い」ことの因果関係がよくわからない。
解)楔前部の活動性が瞑想によって低下することと関係があるのか。瞑想歴のない人々では、左半球と比べ右半球の大脳後頭部の楔前部が大きく非対称であるが、瞑想歴のある人々では、左半球の楔前部がやや大きくなり、ほとんど対称性であった。瞑想は脳内の前後・左右、即ち、上縦束と脳梁の結合性を高める。「楔前部」は自己意識を司っており、睡眠や麻酔で「意識がない時」には「機能が低下」する。あるがままの自分を肯定できる心理状態では、右後帯状皮質と楔前部の活性が低下する。左側が右側の楔前部を抑制するからである。
参考)左右の脳領域は、それぞれの大脳半球の対称的な位置に存在し、各感覚野にある神経細胞群は、脳梁を通じて連絡し合っている。片方の大脳が活性化すると、反対の脳部位では、神経細胞の活動が抑制される(「半球間抑制」)。例えば、右足への刺激によって、左脳の5層錐体細胞から右脳へ伝わる興奮性の情報は、右脳の抑制性の神経細胞を活性化させ、抑制性神経伝達物質であるガバを脳内に放出して、5層錐体細胞の神経活動を抑制させる。ということで、例えば、右脳のある脳部位が損傷したり、左右差が大きい場合、損傷していない反対側の脳機能が強い抑制を受けないことで、非損傷側(この場合左脳側)が過剰な興奮を起こし、損傷側の脳の機能を通常よりも強く抑制してしまう、という現象が起こる。