帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (13)脳梁、交連 4-2)脳梁と「側頭葉」

帯状皮質って中間管理職なのか
(13)脳梁、交連
4-2)脳梁と「側頭葉」
4-2-1)記憶と失認
◎「側頭葉内側部」に隣接する形で、海馬、海馬傍回、扁桃体など「記憶」に関連する脳部位が位置している。尚、海馬は、固有海馬、歯状回、海馬台(海馬支脚)から成る。既に熟知した街並(建物、風景)の同定が困難となり道に迷う症状を、「街並失認」と呼ぶ。これは、「海馬傍回」を中心とする「右」「側頭葉内側部」の病変によって発症する。
注)「失認」(同定できない)とは、ある感覚(例えば視覚)を介して対象物を認知(外界にある対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したり)することができないという(認知)障害である。
◎優位半球(左半球)の内側側頭葉は、「言語性記憶」に関連しているのに対して、非優位半球(右半球)の内側側頭葉は、「視覚性記憶」に関連している。
注)言語的記憶とは、書かれたもの(書き言葉:文字)、話されたもの(話し言葉)など言語と言う形態の情報の記憶である。
4-2-2)エピソード記憶
エピソード記憶機能(記銘・保持・想起 / 再現)に関連する脳領域としては、内側側頭葉、間脳(視床・乳頭体)、前脳基底部が挙げられる。内側側頭葉(海馬と海馬傍回(内嗅皮質・周嗅皮質・海馬傍皮質))を両側とも損傷した患者では、エピソード記憶の障害が顕著である。
注1)エピソード記憶(内側側頭葉(海馬と海馬傍回)が重要な領域)とは、陳述記憶の一つで、「個人が経験した出来事」に関する記憶であり、出来事の内容(何を経験したか)に加えて、出来事を経験した時のさまざまな付随情報(周囲の環境、時間・空間的文脈、その時の自己の身体的・心理的状態など)と共に記憶されている。特にエピソード記憶には、必ず場所が必須の要素として入っている。場所情報がしばしば記憶を呼び起こす際の手がかり(索引)として機能している。
注2)「前脳基底部」は、「前頭葉底面の後端」に位置し、主に脳幹部(腹側被蓋、縫線核、青斑核など)と辺縁系(海馬、扁桃体など)から入力を受ける。前脳基底部にあるマイネル基底核は、神経細胞群で大脳皮質・扁桃体視床に投射する。コリン作動性神経は、記憶と関連する海馬とその周辺領域、扁桃体視床下部、中脳網様体、そして大脳皮質に広く出力を送っている。
このコリン作動性神経は、嫌悪性、新規性などの生物学的に意味のある刺激があった時に、その刺激に関する記憶情報を出力部位に伝え、そこへ「行動的覚醒・注意・集中」を促す。この部位は記憶や睡眠に重要な役割を果たす。特に、エピソード記憶の再生、その内でも時間的文脈の再生に関わる。
アルツハイマー病の患者では、前脳基底部、とくにマイネル基底核のコリン作動性神経細胞が減少している。この減少がアルツハイマー病患者における認知・学習・記憶の能力減退をもたらす。
注1)アセチルコリン神経伝達物質としている神経をまとめて、コリン作動性神経とも呼ぶ。1)副交感神経の節前線維終端及び節後線維終端、2)交感神経の節前線維終端(一般的には交感神経に関する神経伝達物質ノルアドレナリン)、運動神経の骨格筋との接合部である神経筋接合部。大脳皮質に投射する前脳基底部アセチルコリンは、脳の感覚入力処理におけるSN比の調整に関与する感覚ゲートを駆動する。この働きは認知機能の基盤となる注意、集中などにとって重要である。
注2)SN比(情報感度)が高ければ伝送における雑音の影響が小さく、SN比が小さければ影響が大きい。
エピソード記憶に関わる「視床-内側側頭葉」回路には、
1)乳頭体-視床前核群-海馬回路(パペッツ回路)と、
2)嗅皮質-視床背内側核-前頭前野回路の2つがある。
1)「パペッツ回路」は、中に含まれる空間・対象・行動に関する様々な情報を「まとまった個別の出来事(エピソード)に束ねる」働きをする。
2)嗅皮質-視床背内側核-前頭前野回路は、「出来事の間の関係性」を表している。
注1)「パペッツ回路」は、海馬-脳弓-乳頭体-視床前核群-帯状束(脳梁膨大部皮質)-海馬という閉鎖回路である。
注2)乳頭体は、空間的記憶およびエピソード記憶の統合と記憶の保存を支援する。
◎「側頭葉」の上部と下部は、「前交連」を介して脳梁は介さない。前交連と脳梁とでは、個人内の発達順序が異なり、前交連の方が先に発達する。
注)前交連に関しては、後の「(6)交連」の「(6-1)前交連」を参照されたし。
5)脳梁の構造は種々の個人属性と関連
◎両半球は、脳梁を介して、お互いに「競合」し合ったり、「抑制」し合ったりしている。このことが、左右の「優位差」として現れる。
1)右手利き傾向の強い人(殆どの動作を右手で行う)と比較して、右手利き傾向の弱い人(いくつかの動作を左手もしくは両手で行う)の脳梁は厚い。
2)脳梁の厚さと大脳半球機能差は逆相関する。すなわち「脳梁が厚い程左右の機能差は小さい」。
3)脳梁の厚い個人は、薄い個人より、単純反応時間などの作業成績が良好である。
4)一般的に、男性と比較して、女性の脳梁は厚い。
5)男性では、脳梁膨大(後頭葉、側頭葉を繋ぐ)の厚さは 、20~30歳代で最大となるが、女性では50歳代で最大となる。
6)大脳の容積が小さい個人ほど、脳梁が相対的に厚くなる。
注)左右の大脳半球間で抑制し合うことを半球間抑制という。体性感覚野、視覚野、聴覚野や運動野などの感覚を司る脳領域は、それぞれの大脳半球の対称的な位置に存在し、各感覚野にある神経細胞群は脳梁を通じて連絡し合っている。片方の大脳からもう一方の大脳へ出力される情報は、相手の神経細胞の活動を活性化させる興奮性の情報である。所がそれは相手側の抑制性の神経細胞を活性化させているので、結果的には半球間抑制が生じる。