帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (7)帯状皮質の障害と症状 1-2)「前帯状皮質」と症状 1-2-2)統合失調症

帯状皮質って中間管理職なのか
(7)帯状皮質の障害と症状
1-2)「前帯状皮質」と症状
1-2-2)統合失調症
1-2-2-1)統合失調症とは
◎神経病理学的には、まだ素材(感覚情報)がそのままである入り口の一次感覚野はおかされにくいが、集約され加工処理された情報を吟味分析する段階である連合野の機能は障害されやすい。つまり上位階層にあるほど障害に弱い。
それ故に、連合野において歪んだ解釈や、偏った情報抽出がなされがちである。更には、歪んだ偏った情報から抽出を繰り返すことによって、強固な「妄想体系が構築」される。
注1)神経病理学とは、中枢神経(脳・脊髄)、末梢神経、筋肉などから、病気の診断、原因、発生機序(発生の仕組み)を研究する学問である。
注2)連合野は、認知・判断・記憶・言語・緻密な運動など高度な機能を統合する脳領域である。
統合失調症とは、現実とのつながりの喪失(精神病)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)面での問題を特徴とする精神障害である。
注1)「精神」とは、知性的・理性的な、能動的・目的意識的な心の働きを指し示すが、心理は心の働き全般を指し示す。「心」とは、感覚・知覚および知・情・意の働きをいう。より具体的に述べると、ものごとを感覚でとらえたり(知覚)、感じたり(感情)、考えたり(思考)、体験から学んだり(学習)、判断したり、決断したり(意志・意欲)する。
精神は、心の全体の内で、主に知と意の部分を指し示す。「精神」とは、「心」と同じ意味にも用いられるが、心が主観的・情緒的で「個人の内面」にとどまるのに対し、精神は、普遍性(社会性)を持つ知性や理念に支えられる「高次の心」の働きである。
注2)「知性」とは、比較・抽象・概念化・判断・推理などの機能によって、感覚情報を認識(明確に「意味・価値付け」た上での把握)にまで作り上げる精神的能力である。
◎「統合失調症」の患者において、「前帯状皮質の損傷」が見つかっている。帯状皮質は、複数の事柄を同時に把握する働きを持つ。
1-2-2-2)自己と主体感覚と所有感覚
統合失調症は、基本的には、具体的には、「主体感覚」と「所有感覚」についての障害である。所有の感覚や主体の感覚が停止し、その結果、経験も変容する。人には、共感能力があり、自他の区別が付けがたい段階がある。それをフィードバック情報やメタ認知機能によって、自他の言動に区分が付く。その情報や機能が、主体感覚と所有感覚である。
注)「主体感、主体感覚」とは、自らが、行動を引き起こし、またその行動を制御することで、周囲に影響を与えているという感覚、である。「所有感覚」の方は、これは自分自身の、知覚であり、情動であり、思考であるという感覚である。簡単に言えば、(自己)主体感(あれをしているのは他人ではなく自分だ)は、ある行為(知覚、情動、思考などを含めて)を「自分自身で行っている」(行為の主人公)という感覚であるのに対して、(自己)所有感(あの行為者は間違いなく自分なのか)は、ある行為(知覚、情動、思考などを含めて)が「自分の身体内部で行われている」(身体内部の行為)という感覚である。
統合失調症では、この行為は自分自身で行っているという、「自分が活動主体」であるという「認識ができなくなる」ことである。このように、自己が消失してしまう、自己が拡散してしまう。
◎主体感の神経回路(ネットワーク)(主体性ネットワーク)は、島皮質、頭頂葉下部領域(縁上回および角回)、皮質正中内側部構造(「後帯状皮質」と楔前部)、更には、皮質下領域で、「尾状核」などが重要性を持つ。
注1)7野(体性感覚連合野:楔前部)は、「身体所有感」と非常に密接な関わりがある。下頭頂小葉は、「運動主体感」を生み出すために非常に重要な部位である
注2)活動の所有感覚「これは自分の行為だ」は、運動性の活動(運動野から筋肉に送られる指示)と、感覚(情報)のフィードバック(観察結果と筋肉などによって作り出される自覚)がぴったり一致したときに得られる。つまり、「予測と結果が一致」するという納得感によって、主体感や所有感がもたらされる。そのような納得感がないと、疑惑、疑心暗鬼、妄想に入り込む。
注3)運動主体感や身体所有感の形成には、行動結果の予測と、体性感覚と視覚の両感覚からフィードバック入力される運動情報(感覚情報)の一致(時間的な同期)が特に「運動主体感」には非常に重要である。運動の自己主体感は、運動に伴う感覚フィードバックの予測と実際の入力との一致によってもたらされる。これがずれたときに「させられ体験」などの症状が現れる。なお身体所有感とは、自分の身体部位(手足など)を見た時に、その身体部位が自分の身体の一部に属していると感じる経験をいう。この身体所有感は、身体部位が動いていても静止していても生じる。頭頂葉などを損傷した者に、自分の手を他人の手と感じる場合がある。運動主体感とは、動いている身体部位(手足など)に対して、その身体部位を制御しているのは自分であると感じる経験をいう。運動主体感は、身体所有感と違い、能動的に身体を動かした時のみ生じる。
注4)催眠状態においても、自己の運動であるにも関わらず頭頂葉の活動が高くなり、結果として自己主体観(随意性)が低下し、なんらかの外からの力によって行為(不随意行為)をさせられている、というさせられ感覚が生じる。
注5)下頭頂小葉39野(角回)を、電気刺激すると幽体離脱体験を起こす。つまり、「自己意識」(内面の心・精神)と「身体」が離れてしまう。
注6)「自己意識」とは、外界ではなく「自分自身に向けられる意識」である。他者が観察できる自己の外面(容姿や振る舞い方など)に向けられる公的自己意識と、他者から観察できない自己の内面(感覚、感情、思考など)に向けられる私的自己意識がある。
注7)自己の社会的価値や役割に関わる活動では、前頭前野内側(帯状皮質を含む)の腹側部と頭頂葉内側(帯状皮質を含む)の後半部(楔前部)が活性化する。
注8)尾状核は、学習と記憶、特にフィードバック処理に強く関わる。
注9)線条体ドーパミン受容体の密度が高い人ほど、色褪せたと知覚している時に、右背外側前頭前野と左下頭頂小葉(縁上回と角回)の神経活動が高い。
疑問)何故右背外側前頭前野と左下頭頂小葉の神経活動が高い時に、色褪せたと知覚するのだろうか。それとドーパミンとどのように関係するのだろうか。
解)直接的解説ではないが、「角回」からの連合線維は、上縦束Ⅱ/弓状束を経て、「背外側前頭前野」に達し、「縁上回」からの連合線維は、上縦束Ⅲ/弓状束を経て、「腹外側前頭前野」に達する。余談だが、優位半球(左脳)での角回の損傷で、ゲルストマン症候群(手指失認、左右識別障害、失書、失算)と言語性短期記憶障害が出現する。左半球縁上回で各種失行が生じる。角回は、機能的にも構造的にも幅広い脳部位(腹側運動前野、腹外側・腹内側前頭前野、「後帯状皮質」、海馬など)と連絡している。
◎自己消失や自己拡散とは逆に、自己がとてつもなく増幅する場合もある。膨張した自己(自己膨張)は、自分が神のような主体であり、見渡す限りすべてを制御していると信じ込む。主体感覚が余りにも強烈な場合、すべてを自分が起こしたことだと思ってしまい、それにもっともらしい説明を作り上げる。
注)自分を取り巻く世界が色褪せて見えて、現実味を感じないという「離人感」の症状は、自己の身体、感情、思考、感覚などから自分の主体性が失われて、自分自身を非現実的に感じる体験である。現実感消失の症状は、外界から自分が切り離されているように感じられ、周囲の世界に親しみを覚えられず、非現実的に感じる体験である。
統合失調症者が、「自由意志」の感覚が失われる段階では、前頭葉の自己の構築に関わる領域が不活発になっている。一般には、自分で自分をくすぐった場合には、くすぐったい感覚は感じられない。統合失調者では、自分でくすぐったときと、他人にくすぐられたときとでは、触覚処理領域の反応に違いが全く見られない。同じ強さの刺激を与えても、自分でくすぐるよりも、他人にくすぐられる方が、触覚処理領域は強く反応する。
これは、「予測できる刺激(予測通りの刺激)」に対して、「脳は余り反応しない」からである。予測通りの情報は上行しないで途中で抑制される。
参考)ボトムアップして来る様々な情報に対して、「トップダウン的に選択」した場合に、「自由意志を行使」したと言える。であっても、脳幹辺りでトップダウンする反射運動のような場合は、自由意志を行使したとは言えない。成人後の脳機能のトップの座は、前頭葉(特に前頭前野)である。例えば、大脳辺縁系扁桃体トップダウン的行動を行使して、事後的に前頭前野がその行動を認識した場合は、自由意志を行使したとは言えない。やはり、自由意志を行使したとは、前頭葉を起点として、トップダウン的行動に及んだ場合であろう。
注)自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題を行っているときには、前部帯状皮質(32野)、内側前頭前野(10野)、後部帯状皮質(23野31野)、楔前部(7野)を含む大脳皮質正中内側部構造の活動が増大する。