帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 1)「情動」「感情」(その一)

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
1)「情動」「感情」
1-1)「情動」とは何なのだろうか
◎情動とは、1)「感覚」(五感)刺激への、2)(生物学的)「評価」(扁桃体)に基づいた、3)「生理反応」(主に視床下部)と、4)「行動反応」(主に脳幹)と、5)「主観的情動体験」(主に前帯状皮質)とから成る「短期」的「反応」、である。
注1)「刺激」とは、「感覚器官に作用して、反応や変化を起こさせるもの」、である。
注2)「生物学」は、心(精神)ではなく、生物の「物質的身体」に重きをおいて研究する学問分野である。
注3)「生理反応」とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚などの感覚刺激を受容した結果、種々の情動が生じた時の、脳波・自律神経・内分泌・免疫系に起きた身体内部の(生理)反応だと言える。神経系、内分泌系、免疫系は、お互いに密接な関係を保ちながら、ホメオスターシス(恒常性)の維持ために働いている。
注4)「脳波」とは、大脳皮質内のたくさんの神経細胞で発生する活動電位やシナプス電位の総和を頭皮上から取り出したものである。
注5)「内分泌系」は、「視床下部」と「下垂体」が司令塔(制御センター)で、内分泌腺内の細胞から血流中に放出される化学物質(ホルモン)を使って様々な臓器の機能を調整する。なおホルモンを出す臓器は、甲状腺、副腎、性腺などがあるが、「間脳と下垂体」はホルモンを出す臓器としては、最上位に位置しており、これらのホルモンを出す臓器全ての機能を制御する「ホルモン中枢」である。
注6)「免疫系」は、生体内で非自己物質(ウィルス、病原体など)やがん細胞などの異常な細胞や異物を認識して殺滅し、生体を病気から保護する多数の仕組みが集積した機構である。免疫システムは、いろいろな「免疫を担う細胞」が協力して成り立っている。異物だと認識する重要な役目を担っているのが「樹状細胞」で、それらは、外界に触れる皮膚組織、鼻腔、肺、胃、腸管などに存在し、「免疫の総司令官的役割」を果たす。つまり、免疫系は、脳内に司令塔を持たない。
注7)「体験」は、実際の行為を通して感じた体感によって得られた事柄(「五感による体感」)を主に指す。それに対して、「経験」は、何かを実践したことで得られた「知識や技能」の方に重点が置かれる。つまり、経験は、知識・情報に重きが置かれるが、体験は、感覚的受容に重きが置かれる。
注8)「情動」と「感情」と「情緒」。情動(生得的感情)は、身体的反応が必ず伴い、感情(経験的感情)は、前頭前野(知性)からのフィードバック情報を加えた情動であり、情緒は、過去の体験や知識が中心となった知的な人間的な感情(畏怖、感動など)である。
注9)情緒としての音楽への感動は、音を聴覚野で処理受された後に連合野に情報が送られ、更に頭頂葉前頭葉とのネットワークを経て知覚され認知される。それらの「知的処理」された情報は、大脳辺縁系で「情動的判断」され、報酬系で「美的価値評価」がなされ、それらが同時並列的に生じて、落涙、震えなどの「身体反応(脳幹)」が起こる。
1-2)情動の中核部位と拡張部位
◎「情動」に関わる脳部位を、1)中核部位と2)拡張部位に分ける。
1)情動の中核部位としては、「前頭前野眼窩部」、帯状皮質前部(特に「膝下野」)、「扁桃体」、「側坐核」、「視床下部」、などが挙げられる。
2)情動の周辺(拡張)部位としては、前頭前野内側部、前頭前野背外側部、側頭葉前部、上側頭溝、頭頂葉体性感覚野、島皮質前部、帯状皮質後部、海馬、中隔、腹側被蓋野、脳幹、中脳水道周囲灰白質、などが挙げられる。
◎喜び、悲しみ、恐れ、怒り、驚きといった情動は、1)「一次的情動(生得的基本情動)」で、「扁桃体」などを含めた「大脳辺縁系」が中心的に関与する。更に人の情動には、当惑、嫉妬、罪悪感などの2)「二次的情動(後天的社会的情動)」で、「前頭前野」や「体性感覚野」の大脳新皮質が重要な働きをする。
◎外界からの感覚情報は、扁桃体の生物的評価結果(一次的情動)に基づいて脳幹、視床下部を介して身体末梢に出力(生理反応・行動反応)される。そうした身体情報は、ふたたび上向系の伝達経路を経由して大脳皮質に入力され、また島皮質等を経由し、腹内側前頭前野へ入力される。それらの情報を受け取った腹内側前頭前野は、中・長期的な展望に立った意思決定へと導く。
注)腹内側部は、前頭連合野内側部の下方の一部を含む前頭前野腹側(底面)の前の方。
◎情動は、(上位階層にある)感情を基礎づけている1)「生理的身体過程」(震える、鳥肌が立つなど)である。その後「認知的評価と結び合わされ」た情動は、2)「言語化可能な感情」(嬉しい、哀しい、淋しいなど)になり、社会的ルール(文化・倫理等)を加味した3)「思考」によって、感情は、4)「社会的行動」(友情、協力など)として表出される。