帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (12)島皮質 3)島皮質の機能 3-1-2)自己意識

帯状皮質って中間管理職なのか
(12)島皮質
3)島皮質の機能
3-1-2)自己意識
参照)「自己意識」に関しては、「9)前帯状皮質膝前部(32野)」の「(3)膝前部の機能」の「3-3)自我(自己)意識」
参考)個人的性格資質(柔軟性、真面目さ、衝動性など)に関する、自分自身による自己評価と、あなたをよく知る他人から見た印象(あなた評価)を比べた場合、その相関係数は0.40程度でしかない。つまり、自己評価と他者からのあなた評価はあまり一致しない。研究結果が言うには、あなたの行動をより正確に予測できるのは、あなた自身ではなく他者の方である。それは何故かといえば、自分の思考、感情、目標、判断、行動などの大部分は、「無意識下で起きている」からである。その内の一部は内省を行うことで認識できるが、殆どは、自分(意識)が知らない(過去から蓄積された「記憶に基づいた無意識」的)判断基準に基づいて実行されているからである。
注)相関係数では、ー0.5~0.5の価では相関なしと評価される。だから、0.40程度では相関なしといえる。
◎「島皮質前部」は、自己意識の座とされる。「自己意識」とは、外界ではなく「自分自身に向けられる意識」のことであり、向けられる自己の側面によって2つに分けられる。
注1)自分自身の姿か他人の姿かを判断する際に、「島皮質前部」が活動する。
注2)自己意識は、前部島皮質と前部帯状皮質の協調の産物であるとの説と、そうではなく島皮質独自の機能であるとの説がある。
◎「自己意識の座」とされる「前部島皮質」の灰白質容量が低下し減少することで、「自己の表象に関わる自己意識の統合性」が障害され、幻聴などの「自己所有感」が歪む。
注)灰白質とは、神経細胞の内で、細胞本体が密集する層をいう。
◎他人の目がある時、自己意識情動(自分の姿や行動を評価して生まれる恥ずかしさなどの情動)が増強するが、その時に、「右島」皮質が活性化する。自分の顔を見ている時には、右側前頭頭頂領域(44野40野)が強く活動する。
◎幼児は、1歳半~2歳頃から、鏡に映る自分の顔を自分であると気付くという1)「視覚的自己認知」を獲得し、3~4歳で自分の姿や行動を評価(2)「自己評価」)し、恥ずかしさなどの3)「自己意識情動」を経験するようになる。つまり、1歳後半頃に多くの子どもが自己認識できるようになり、3歳後半で、恥ずかしい、照れくさいといった複雑な感情も表れる。それは、社会的基準と自己の実態とのズレ(差分・誤差)が鋭く意識されるからである。このズレ(差分誤差)により当惑や恥などのネガティブな感情(自己意識情動)を感じやすくなる。
注1)評価とは、善悪・美醜・優劣などの価値を判定することである。
注2)脳は、実際値(結果)と予測値(予想)との差分・誤差を監視して、修整する機能・装置を至る所に備えている。
3-1-3)自己意識情動
◎上で「自己意識」について述べたが、ここでは「自己意識情動」に関して述べていく。自己意識には、
1)一つは、他者が観察できる「自己の外面」(容姿や振る舞い方など)に向けられる公的自己意識、
2)もう一つは、他者から観察できない「自己の内面」(感覚、感情、思考などいわゆる心)に向けられる私的自己意識である。
◎「3-1-2)自己意識」で言及したが、自分の姿や行動を自己評価した結果、感じられた恥ずかしさなどの自己意識を原因とする情動を、自己意識情動という。
注1)自己を内省している時に、前帯状皮質(32野)、内側前頭前野(10野:前頭極)、後帯状皮質(23野31野)、および楔前部(7野)を含む大脳皮質正中内側部構造の活動が増大する。
注2)7野(体性感覚連合野:楔前部)は、「身体所有感」と非常に密接な関わりがある。
◎他者の目を意識することによって、公的自己意識(自己外面への意識)が強まると、公的私的基準(理想)と自己の実態(現実)とのズレ(差分・誤差)が鋭く意識される。このズレにより当惑、恥、誇らしさなどの自己意識情動を感じやすくなる。また、このズレを低減させるために、自己の判断や行動を他者と一致させる「同調行動」が出現しやすくなる。
参考)相手の動きに意図的に自分の動きを合わせたとき、相手と自分の間で、側頭部から記録される脳波の内、アルファ波とガンマ波の脳活動において、同期的な律動が生じる。アルファ帯域活動において、2者間の同期的律動の認められた脳部位(後帯状皮質と楔前部)が、「観念の共有」に伴って2者間同期が発生した脳活動部位である。同調と似たような、他者との相互作用を通じた、他者理解、コミュニケーション、共感、協力、競争などの社会的能力を実現する脳機能を有する脳領域を「社会脳」と呼ぶ。例えば、見つめ合いや相手の視線を感知して同じ目標を注視する共同注意する課題を行った後では、2者の右下前頭回(44野:弁蓋部、45野:三角部、47野:眼窩部)活動の同期が生じた。社会的存在である生物にとって、他者との行動同調そのものが報酬として機能する。それが単に快感情や向社会的態度をもたらすだけでなく、更に行動の同調を促進する。ちなみにオキシトシン(愛着を促進するホルモン)を鼻腔投与すると、共同作業中の脳波活動の同期が顕著に促進され、かつ共同で遂行する課題の精度も高まる。
◎(社会的基準と実際の自分との差分から来る)恥ずかしさは、自分の社会的イメージを守るための心強い味方、警報装置である。周囲からの評価や信用を失いかけた時、無意識からの羞恥心が、意識に向けて警報を送る。
◎「罪悪感」と「気恥ずかしさを生じさせる場面で、両側の「内側前頭前野」の賦活が見られる。なお罪悪感も気恥ずかしさも共に、自己意識情動である。
◎「道徳的意識」を生起させるためには、「社会的に逸脱」しているということや、「道徳的に違反」しているということに気付く(「認知」する、理解する)だけでは不十分であり、恥や罪悪感といった「自己意識的情動の生起を伴う」ことが必須である。「人の振り見て我が振り直せ」、である。人の振りを見る(認知する)だけではなく、我が振りを直す(自己を内省する)という自分事化(自己意識情動)にまで至らないと「意識変化」は起こらない。その時に不可欠の脳部位は、前頭前野である。