帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (8)(帯状)膝下野(25野) 3)膝下野の機能やその障害 7)自分事化(自己制御、自己努力、自己選択、自己帰属化)

帯状皮質って中間管理職なのか
(8)(帯状)膝下野(25野)
3)膝下野の機能やその障害
7)自分事化(自己制御、自己努力、自己選択、自己帰属化)
◎「自分の意志、判断で進行を制御」できる状況下では、「前帯状皮質吻側部(25野)」が活性化する。例えば、前帯状皮質吻側部は、ゲームを継続するかどうかの意志決定において、(「もっと続けよう」という)「積極性」を持たせる方向へと判断を下す役割を持つ。言い換えると、前帯状皮質吻側部は、自分の能力が上達して、次は勝てるかもしれないという「内発的動機付け」を形成させる。
注1)「積極性」とは、物事に対して自ら進んで働きかけたり、意欲を持った上で取り組んだりする気持ち、態度である。
注2)動機付け」には、外的報酬の獲得を目標とした動機づけ(外発的動機付け)と内発的動機付けの二つがある。その内で、「内発的動機づけ」では、行動を起こす要因が、内面に湧き起こった「興味・関心・意欲」から来る。自分の意志、判断で進行を制御できる状況下とは、この内発的動機づけに従って行動できる状況を意味する。内発的動機づけとその変動には、前頭前野の1)外側部と2)腹内側部そして3)線条体(線条体前部の腹内側部の側坐核)が重要な役割を果たしている。線条体前部は大脳皮質「前頭葉」から多くの軸索投射を受けている。線条体は、脳幹の「中脳のドーパミン神経」からも大量の軸索投射を受けている。つまり「線条体(側坐核)」は、前頭葉から進行経過情報(認知情報)を受け、中脳ドーパミン神経からは歓喜情報を受けて、それらの情報を結び合わせる拠点である。
注3)リスクはあるが当たれば大きな報酬が得られるというばくち的選択肢を多く選んでいたラットの島皮質の活動を抑制すると、リスクを避けて、報酬が少なくても確実にそれが得られる選択肢を多く選ぶ行動に切りかわる。「リスクを冒してもより大きな利益」の獲得を目指すという行動を促進する脳領域は、「島皮質」である。
帯状回前部吻側部(25野:膝下野)は、動機付け(特に内発性動機=興味・関心)を形成する。というのは、帯状皮質前部は、「状況を自分が制御」しているという「能動性意識」が働いている状態で活性化する。つまり、「自分の努力次第」で、次は上手く行くかもしれないという状況下で活性化する。これは「自分事化」である。つまり自分(何かをする気持ちの出処)という所在地は、帯状皮質吻側部=膝下野と見なせる。膝下野以外には、「前頭前野腹内側(眼窩)部」において、「自己決定感(自己選択可能性)」が高い場合には、成功だけでなく「失敗」に対しても「積極的に価値づけ」ている。
◎「自分事化」とは、「自分を関係者(当事者)」の一人として、自覚認識することである。これが、(自己努力で解決可能だという)内発的動機である。「感情的に共感」する脳部位は、前帯状皮質(特に膝下野)と内側前頭前野(8野9野10野)腹側部(眼窩前頭前野)である。知識(認知:前頭前野外側部)だけではなく、「感情、気持ちが揺さぶられ」(身体的活性化)ないと、「動機付け」(意欲)にはならない、感情的「共感」にはならない、「自分事」にはならない。対岸の火事(認知情報)では気持ちは動かない。「自分の努力次第」で、良い結果が生まれる可能性があれば、それが「心理的報酬」(達成感、充実感、満足感、自尊心など)として機能する。努力してもしなくても報酬が得られるならば、その報酬は内発的動機付けにはならない。逆に、努力しても報酬(心理的報酬を含めて)が得られないなら意欲が湧かない、「無気力」に陥る。つまり、「報酬が自分の努力次第で変わる場合にのみ、内発的動機付けとして機能」する。
参考)「自分事化」と関連する言葉は、「責任感」、「当事者意識」、「主体性」、である。自分が、ある事柄(状況や人を含めて)に「影響を与えられる存在」だと自覚する、という点で共通性を持つ。これらを得るには、身体的に心理(精神)的に、「受身(受動、依存)から能動(自立、相互作用)」へ切り換えることである。受動と能動の切り換えスイッチは、前帯状皮質が握っている。
脳の意思決定を司るネットワークは二つある。一つは、自分の意志に合った行動を選択しようとするセントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(中央実行機能)。もう一つは、過去の記憶から半自動的に自分の慣れ親しんだ習慣的行動を無意識的に自動的に選択するデフォルト・モード・ネットワーク。この二つのうち、中央実行機能が作動している状態が主体性が起動している状態である。つまり能動的意識状態である。
中央実行機能=能動的意識状態=主体性
◎「自分」の「意志」や「責任」で行動する態度が「主体性」であるが、それと反対の態度は、「受動性」(依存性)であり、「他者」の意思に従って行動する態度である。そこには意志や責任が存在しない。
注)主体性と自主性の違い。自主性(対義語:受動性)は、他人の指示で動くのではなく、「自己判断で能動的に動く」(能動性に主眼を置く)ことであるが、主体性は、自主性(能動性)だけではなく、更に自ら考え、自ら判断し、自ら行動し、自ら責任を取るという幅広い範囲に渡って自主性を示す。自らの「判断」と「意志」とに基づいて自らが対象に働きかけ、「目的」を実現し、さらにその結果についての「責任」を負おうとする態度が主体性である。
前頭前野腹内側部(眼窩前頭前野)の活動パターンは、「自己選択」(自己意思)条件と「強制選択」(他者からの命令)条件の間で大きく異なる。他者からの指示による「強制選択」条件の時は、成功時には眼窩前頭前野の活動が高まり、失敗時には弱まる。つまり「結果」に注目する。所が、「自己選択」条件になると、失敗しても活動が弱まらず、成功時と同様に高まる。しかも、ゲームの難しさは変わっていないのに、自己選択条件では、強制選択条件よりも明らかに「良い成績」であった。
つまり、「自分事化」は、「前頭前野眼窩部と膝下野」が責任部位(中枢)である。
◎強化回路(中脳辺縁ドーパミン系、報酬系、快の情動システム)は、両側側坐核、両側前島皮質、前帯状皮質吻側部、視床、中脳である。