帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (8)(帯状)膝下野(25野) 3)膝下野の機能やその障害 5)「不安」と「ノルアドレナリン」

帯状皮質って中間管理職なのか
(8)(帯状)膝下野(25野)
3)膝下野の機能やその障害
5)「不安」と「ノルアドレナリン
◎前帯状皮質膝下野は、「内側前頭前野(社会脳・社会性)」、「島皮質(総合的身体感覚)」、「海馬(エピソード記憶)」、「視床下部(身体的ストレス反応)」と結合(線維連絡)関係にある。「不安という情動処理」においてこれら脳部位を結合する位置にある膝下野は、中心(中核・中枢)として働く。
◎「不安」とは、その人にとって1)「危害的な状況」に対処し、2)「自己保存」を図るために生じる、心身における本能的無意識的3)「生理的反応」である。緊張、不安、恐怖の感情を持つとき、脳内物質の「ノルアドレナリン」が分泌される。
注)「不安や恐怖」は、「扁桃体の過活動」によって引き起こされるが、「セロトニン神経」は、扁桃体の活動を「抑制的に調節」する。「ノルアドレナリン」は、セロトニンとは逆に、不安・恐怖の源である扁桃体に対して「亢進的・促進的に調整」する。つまり、「ノルアドレナリン」神経の過活動によって「扁桃体」も過活動状態を維持し、不安・パニック発作などを引き起こす。
注)「扁桃体」に投射するノルアドレナリン神経は、「恐怖学習」(恐怖体験の記憶)に関与し、「前頭前野」に投射するノルアドレナリン神経は、逆に「消去学習」(恐怖体験記憶の消去)に関与する。扁桃体投射神経細胞群と前頭前野投射神経細胞群とが青斑核内で分類分けされている。
疑問)「セロトニン神経は扁桃体の活動を抑制的に調節」は、どういう仕組みで行うのか。
解)例えば、パニック障害においては、扁桃体前頭前野、海馬や大脳辺縁系などに分布するセロトニン神経系の神経伝達物質(セロトニン)が少なくなっている。 その中で扁桃体は、恐怖・不安の発信源であり、そこからの信号を扁桃体段階や前頭前野段階で抑制しているのが、セロトニンやGABA(ガバ)などの抑制性神経系である。なお扁桃体の基底外側核に投射するノルアドレナリン神経が恐怖記憶の形成を促す。
疑問)前頭前野に投射するノルアドレナリン神経が、消去学習に関与する仕組みはどんなものなのか。
解)内側前頭前野の腹側部に投射するノルアドレナリン神経が恐怖記憶の消去に関与する。ノルアドレナリンは、恐怖条件づけにおいては扁桃体の基底外側核へ働きかけ、消去学習においては内側前頭前野の腹側部へ働きかける。恐怖の入り切りが、扁桃体と腹内側前頭前野とで、代わる代わる相手を抑制(相反抑制)することにより生じる。
◎一般的にはノルアドレナリンが分泌されると、脳の覚醒度が上がり、注意(警戒)を喚起することで、意欲や集中力が高まる。それとともに、筋肉に血液を送り込んで心拍数を速くしたり、血圧を上昇させ、迅速な対応が可能な活動的な状態に身体環境を準備する。
これを脳部位的に言えば、「ストレス」がかかると、脳全体に配線を伸ばしている神経から、「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」などの興奮性神経伝達物質が放出される。これらのホルモン濃度が「前頭前野」で高まると、前頭前野神経細胞間の「活動が弱まり、やがて止まって」しまう。結果、感情や衝動を抑制している前頭前野の支配力が弱まって、結果的には進化的に「古い脳領域(例えば視床下部など)の支配が強まった」状態になる。これは「身体的機能を高める」働きをする。
だが、上手くこの段階で留まればいいが、ノルアドレナリン神経の過活動(ノルアドレナリン量の増加)によって「扁桃体も過活動」状態になり、情動的な「不安やパニック発作」などが引き起こされる。それに対応して「セロトニン神経が、扁桃体の活動を抑制的に調節」する。
疑問)ノルアドレナリンドーパミンなどの興奮性神経伝達物質のホルモン濃度が前頭前野で高まると、何故前頭前野神経細胞間の活動が弱まり、やがて止まってしまうか。
解)残念ながら不明。
6)情動の認知と体感との出会い
◎「自己」と「他者」との「情動」に気づくのは、「右半球」の「前部島皮質」と前帯状皮質吻側部(「膝下野」)である。
参考)右半球と左半球の機能差。右半球損傷者は有意に意欲・発動性の低下を示した。右半球損傷(左半球使用)者には、驚き・幸福・無関心の表情が、左半球損傷(右半球使用)者には、悲しみの表情が多く見られたが、両側半球損傷者は特徴的な表情を示さなかった。右半球損傷者は、ポジティブおよび中立な感情を、左半球損傷者は、ネガティブな感情を現す表情を呈する。右半球が表情の認知を担っている。右半球後部皮質が感情情報の認知に特化した部分である。
右半球と左半球は、それぞれ担う感情のレベルが異なる。右半球は自動的レベル(生得性)の感情を担うので、環境刺激によって強く条件づけられ、学習(記憶)に基づいた自動的無意識的運動反応および感情が形成される。それに対して、左半球は制御的レベル(意識段階)の感情を担うので、刺激に対し意味記憶に基づいて認知的評価を行い、社会的ルールに応じた制御的で意図的な感情表現を形成する。
◎「情動が体験」されるには、状況に対する1)「評価」と2)「身体フィードバック」の双方が束ねられる必要がある。前帯状皮質吻側領域(膝下野)(25野)は、感覚入力と価値(評価)入力が統合される部位であるとともに、身体フィードバック情報を表示する部位でもある。言い換えると、前帯状皮質吻側領域は、「認知的内容」と「身体反応変化」が統合される部位であり、情動体験に関する表示情報はここに保持される。つまり膝下野が情動体験の場といえる。