帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (7)帯状皮質の障害と症状 1-2)「前帯状皮質」と症状 1-2-0)ストレス(興奮・緊張)と抑制性ガバ

帯状皮質って中間管理職なのか
(7)帯状皮質の障害と症状
1-2)「前帯状皮質」と症状
1-2-0)ストレス(興奮・緊張)と抑制性ガバ
◎ストレスがその発症に関与する多くの精神障害では、前帯状皮質の形態や機能に変化がみられる。ストレスが前帯状皮質シナプス可塑性に影響を与える。
注1)精神疾患(精神障害)とは、「偏った精神状態」のために、著しい苦痛や機能障害をもたらし得る多様な症状群をいう。
注2)「ストレス」とは、外部から刺激を受けたときに生じる「緊張状態」のことである。外部からの刺激には、1)環境的要因(天候や騒音など)、2)身体的要因(病気、栄養不足など)、3)心理的な要因(不安、悩みなど)、4)社会的要因(人間関係、仕事関係など)がある。
注3)「シナプス可塑性」とは、神経細胞において、細胞と細胞を連絡するシナプス前と後の細胞間の「信号伝達効率が、長期的に変化」する現象を表す。その内で特に「長期増強」のようにシナプスの「伝達効率が増加」する場合を指し示す。その逆である伝達効率が減少する場合には長期抑圧と呼ぶ。
参照)「ストレス」に関しては、「5-2)前帯状皮質」の「14)「意識、努力、意図、心的ストレス」」の「14-5)ストレス、心的ストレス」
◎一過性ではなく「慢性ストレス」によって、「前帯状皮質」における「抑制性ガバ神経系の機能が低下」する結果、前帯状皮質の「興奮性シナプス伝達の短期および長期可塑性が増大」する。例えば、行動多動化とかすくみ行動の減少(マウスの場合)とかいった行動変化は、前帯状皮質神経系(特に抑制系)の機能低下により出力側細胞の興奮性が高まり、更には、前帯状皮質でのシナプス可塑性が増大したことと強く関連する。
注)「ガバ」(GABA)とは、主に中枢神経系の「抑制性シナプス伝達」を担うアミノ酸(神経伝達物質)である。興奮性神経細胞からの出力を抑制する方向に調整して、同期性を制御したり、過剰興奮を防ぐなど重要な機能をもつ。つまり、ガバは「ブレーキの役目」を果たす。
疑問)何故、慢性ストレスによって、前帯状皮質のガバ神経系が機能低下を起こすのか。
解)長期間にわたる慢性ストレスは、神経細胞を過労によって萎縮させ、樹状突起の分岐を減らす。重篤化すると神経細胞の死滅脱落も生じる。仕組みとしては、ストレスホルモ(コルチゾール)が受容体(神経伝達物質、ホルモン等を選択的に受容するタンパク質)に結合し、更には核に移行してDNAに結合し、遺伝子転写を制御する。前帯状皮質は、海馬と並んでストレスに対して脆弱な部位である。前帯状皮質は、感覚刺激に対する情動反応を制御し、適切な行動を選択する情動的認知過程に関与して、報酬と嫌悪刺激に対する評価と、それに基づく行動発現に重要な領域である。これは、前帯状皮質が環境の変化がもたらす「ストレスに対して敏感に反応する領域」であることを意味する。
注)脳内の「興奮と抑制のバランス」の崩れ・乱れは、てんかん統合失調症自閉症強迫性障害などさまざまな精神神経疾患の原因となる。なお、中枢神経系には、興奮性(GO)神経細胞と抑制性(STOP)神経細胞が存在する。大脳皮質では20%~30%の神経細胞が抑制性神経細胞である。