帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (6)後帯状皮質 3)後帯状皮質の機能 3-4)顔面形態表情の認知(表情・相貌認知)

帯状皮質って中間管理職なのか
(6)後帯状皮質
3)後帯状皮質の機能
3-4)顔面形態表情の認知(表情・相貌認知)
◎人の「顔」には、個人、性別、年齢、人種などの特徴や、個々の顔に固有な特性が含まれている。それだけではなく、その時々の感情や注意の方向を表す豊富な社会的情報(表情、視線、感情状態、心理精神状態など)も表示されている。人の脳は、それらを認知する極めて精巧な仕組みが組み込まれている。
◎「顔」認知の中心的なシステムは、1)「後頭葉」顔領域、2)「紡錘状回」顔領域(側頭葉37野)、3)「上側頭溝」で構成されている。これらに加え、頭頂溝(空間的注意)、聴覚領域(音声)、扁桃体および側頭葉先端部(側頭極:38野)などが補完的顔認知システムに含まれる。このシステムで認知された顔情報は、例えば「ミラーシステム」へ送られ、他者理解などに用いられる。
これらの一連の過程(顔表情認知)は、すばやく、意識下(無意識)の段階で自動的に遂行される。
注)側頭極は、「意味記憶」、「相貌認知」、「心の理論」などの「社会的情動的機能」を有する。
参照)「意味記憶」に関しては、「*1帯状皮質(個別機能)」の「3)「デフォルトモードネットワーク」」
◎下後頭回周囲の顔関連領域(「後頭葉顔領域」)は、顔の持つ一般的特徴や顔の構成要素に強く反応する。顔認知の初期段階である「顔の基本的特徴」を捉える。つまり顔かそうでないかの識別がここで行われる。そしてここからその相貌情報が次へとバトンタッチされ、顔の各種詳細な特徴が抽出されていく。
◎「表情」を認知する際は、1)上側頭溝(前端が側頭極、後端が頭頂葉の角回まで)領域、2)扁桃体、3)前頭眼窩部・前頭前野内側面の3つの部位によるネットワークが中心的な役割を果たす。
順を追って述べると、上側頭溝を含む上側頭溝領域において、「顔の動的」な側面の1)知覚(認知)を行う。その情報を扁桃体へ送り、2)「表情(感情)」を感じ取る。扁桃体で感じた感情は、前頭葉(「前頭前野」)に入力され、この領域において情動に対する3)「社会的道徳的」判断を行う。このように表情認知において、扁桃体だけが重要な役割を果たすのではなく、上側頭溝領域(顔一般情報)、扁桃体(顔の感情情報)、前頭眼窩部・前頭前野内側面(社会的側面)などの広い脳領域が相互作用的に異なる機能を担う。
◎改めて、1)「上側頭溝(上側頭回)」の機能を述べると、他者がどこを見ている(視線の向き)か、また、他者の感情が「どこへ向けられているか」、「表情の変化」や、あるいは生物が「どう動くか」(動線)を認識判断する。つまり主に「動的表情」を判断する。
◎顔の認知は、上側頭溝(視線、表情、口の動きなどの顔の動的な側面を認知)だけでなく紡錘状回(顔の静的な側面を認知)も担当する。しかも右半球優位である。 だが、これらの領域は、顔認知専門ではなく、鳥や車やフィギュアなどの識別(分類・カテゴリー化)も取り扱う。分類の下位のまた下位に属するような分類分けを行う。単語は左、顔は右優位、自動車は両側性を持つ。
◎3)眼窩前頭前野は、「感情」や「社会的行動」を「評価」する領域である。この領域は、無表情な顔よりも感情的な顔に強く反応し、感情表現の「解釈」をする。つまり顔表情の「社会的側面」に注意を向ける。それに対して側頭葉は、感情的な顔に反応しない。前頭葉(特に眼窩部)を損傷すると、他人(属性:色、形、能力、素性、社会的関係)を認識はできても相手の感情を推定できなくなる。
◎顔表情認知には、それら以外にも、下前頭回(44野45野47野)、大脳基底核、島皮質といった脳部位も関与する。「ミラーシステム」を構成する、下前頭回(弁蓋部(44野)、三角部(45野)、眼窩部(47野)、ブローカ野(44野)で構成)と上頭頂葉(5野7野)が、本人が実際に行動する時と他者の行動を観察する時の両方で活動を示す。
◎腹側後帯状皮質(23野)は、前帯状皮質膝下野(25野)、眼窩前頭前野、側頭葉腹側路と深く関わる。腹側後帯状皮質(23野)は、顔面の形態認知に関わる。顔面認知に際して、正立顔の認知の場合には、「物体認識に関わる脳部位が抑制」される。つまり、顔認識に不要な部位を抑制して、必要な部位だけを活動させるようにすることが、正常な顔認識にとって必要であることを意味する。
注)正立とは、倒立に対する語句で、上下が正常状態を表す。
◎「腹側視覚路」(側頭葉腹側路)は、視覚対象の認識や形状の表象(心の中での映像化)と関係している。内側側頭葉(長期記憶保存庫)や大脳辺縁系(情動)、背側視覚路(視覚対象の「位置」や「動き」を処理する)と強く関連する。側頭葉は、腹側視覚経路の最終地点にあたり、物体についての視覚表象、視覚長期記憶の貯蔵と想起を司る脳領域である。物体認知は、一次視覚野から腹側経路を通して処理される。
注1)「視覚情報」は、まず「外側膝状体(視床)」から「後頭葉一次視覚野」へと伝えられる。その後、「二次視覚野」に至ると、側頭葉へと向かう視覚経路(1)腹側視覚経路)と、頭頂葉へと向かう視覚経路(2)背側視覚経路)に分岐する。1)腹側視覚路は、第二次視覚野と第四次視覚野を通って、下側頭葉(IT野)へ到達し、そこから前頭前野外側部に投射する。
注2)顔の認知に関する視覚情報は、後頭葉(視覚野)から視覚経路(1)腹側視覚経路)を経由して(物の形態・色彩の認知領域)側頭葉への流れに入る。
注3)顔認知に関しては、下後頭回で顔の造作が認識され、紡錘状回外側で顔の同定(誰)がなされ、変化する目や口などの動的表情が上側頭溝に送られる。
注4)後頭葉には、一次視覚野(17野:後頭極:楔部)、18野:二次視覚野(V2)(外線条皮質)(舌回/舌状回)、19野:視覚連合野(V3)(外線条皮質:紡錘回/紡錘状回/後頭側頭)が存在する。
注5)人と他の動物とを分ける心の働きとして、「目の前にない物事を思い描く」という「表象機能」がある。人は、表象を基にして言葉を使い、思考をし、想像して物事を創り出し、多様な文化を構築して来た。

*1:5-2