帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 14)「意識」と「努力」と「意図」と「心的ストレス」(その三)

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
14)「意識」と「努力」と「意図」と「心的ストレス」
14-5)ストレス、心的ストレス
◎現代では極めてよく見聞きする言葉だが、そもそも「ストレス」とは何だろうか。それは、外部から刺激を受けたときに生じる「緊張状態」のことである。心身の「恒常性維持機能」に挑戦する刺激を受けると、その機能が働く。緊張とは、その機能が作動した証である。
恒常性維持機能の3大システムが、1)自律神経、2)内分泌、3)免疫系であり、「恒常性維持を揺さぶる」張本人こそがストレス(緊張状態)である。
◎ストレスを分類すると、
1)物理・化学的ストレス:(物的環境)暑さ、刺激臭、湿度、騒音など
2)生物学的ストレス:(身体状態)疲れ、痛み、病気、けがなど
3)心理・社会的ストレス:(心理・対人関係)不安、心配、恐怖、緊張、孤独など
1)物理・化学的ストレスは、感覚(五感)段階のストレスである。2)生物学的ストレスは、主に脳幹(生命維持・内臓機能)段階にかかる負担である。3)心理・社会的ストレスは、大脳辺縁系大脳新皮質に向かう負担である。人にこれだけ心理・社会的ストレスを受け持つ脳部位が多ければ、多くの人間がストレスに押し潰されるのも不思議はない。
心理的精神的社会的ストレスは、受けた大脳皮質や大脳辺縁系を経由して視床下部に情報伝達され、ストレス反応系である、1)「視床下部-交感神経-副腎髄質系」(自律神経系)と、2)「視床下部-下垂体前葉-副腎皮質系」(内分泌系)を活性化させる。
視床下部、下垂体にはコルチゾール受容体があり、コルチゾールの分泌量が増えるとネガティブ(抑制性)フィードバックされ、ストレス刺激が過剰に加わらないよう制御されている。しかし、ストレス状態が持続すると、適応力が徐々に低下し、恒常性維持機能が崩れてストレス適応障害に陥る。例えば、過剰なストレスによりコルチゾールの分泌が続くと、海馬の神経細胞グリア細胞に障害を与える。うつ病では、海馬の萎縮や神経細胞新生の低下を来す。
注)ストレス適応障害とは、社会生活をする上で特定のストレス要因にうまく適応できず、様々な症状を引き起こし、その結果、日常生活に悪影響を与える精神疾患をいう。
帯状皮質前部は、「心的ストレス」がかかるような課題に従事させると活動する。
注)前帯状皮質は、意識、努力、自主性、能動性、心的ストレス、トップダウン処理、あるいは葛藤などの複数の要素が並立する条件を伴う場面で、起動する。
心身症では、精神的ストレスを抑制する時に活性化する外側前頭前野の活動が低下し、情動処理に関わる扁桃体の活動が上昇し、身体症状をもたらす、身体感覚に関わる脳部位の活動が上昇する、という。
◎ストレス(特に心理・社会的ストレス)は、感情や衝動を抑制している前頭前野の支配力を弱める。その結果、視床下部などの進化的に古い脳領域の支配が強まった状態になる。そのことで、不安を感じたり、普段は抑え込んでいる衝動(欲望にまかせた暴飲暴食、薬物乱用、お金の浪費、暴力など)に負けたりする。
前頭前野は、下位階層への制御装置としての役割を担っており、状況(TPO)にそぐわない思考や行動を抑制する。下位の機能を抑制することによって、上位の機能は、時間をかけた、集中、計画、意思決定、洞察、判断、想起などの内的作業ができる。
だが、ストレスがかかると、ノルアドレナリンドーパミンなどの神経伝達物質が放出され、これらの濃度が前頭前野で高まると、神経細胞間の活動が弱まり、やがて止まってしまう。扁桃体は、ノルアドレナリンコルチゾールの濃度が高まると、危険に備えるよう他の神経系に警告を発したり、恐怖などの情動に関わる記憶を強めたりする。更に慢性的なストレスにさらされると、扁桃体樹状突起が拡大する一方、前頭前野樹状突起は萎縮する。
注)樹状突起は、神経から延びる情報伝達用器官である。