帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 14)「意識」と「努力」と「意図」と「心的ストレス」(その一)

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
14)「意識」と「努力」と「意図」と「心的ストレス」
14-1)知情意
◎「知情意」という言葉があるが、「情」は、特に大脳辺縁系が中枢となり、「知」は、大脳新皮質前頭葉より後部(尾部)の頭頂葉後頭葉、側頭葉が主体となる。「意」(意志)は、前頭葉(企画:前頭前野と実現:運動野)にありである。
所が、大脳新皮質を持たない(といってもいいほどの)動物にとって、知情意はどうなっているのだろうか。実は、知は大脳辺縁系(海馬:記憶)が担当し、情(扁桃体:大脳辺縁系)は意(大脳基底核)よりも上位にあって両者を併せ持つ。つまり、大脳辺縁系よりも上位階層を持たない(といってもいいほどの)動物にとっては、大脳辺縁系が知情を担当し意(大脳基底核)を上から制御する。
更には、大脳辺縁系すら持たない(といってもいいほどの)動物、例えば、魚は、脳幹が、知情意全てを担当する。知を担当するのは、その内で視床(間脳)であり、中脳(中脳水道周囲灰白質腹側被蓋野)が、情と意を兼務する。魚の意は、ほぼ反射行動的な内容である。なので意とも呼び難いレベルである。
人の場合は、先ほど述べたが、大脳新皮質後半部が知を担当し、大脳辺縁系が情を束ねる。前頭葉が志向性を持つ意を担当する。
参考)精神分析療法を産み出したフロイトは、抑圧された無意識(大脳辺縁系、脳幹)が、常に日常の場面で抑圧(大脳新皮質からのトップダウン制御)を撥ね除けようとして意識的な自我(大脳新皮質前頭葉)と対立し、心の葛藤(前帯状皮質)を生み出すのだと考えた。
それに対して、分析心理学を産み出したユングは、意識的自我と無意識とは常に対立(葛藤)するのではなく、相互作用を通じて心の調和を生み出しているのだと考えた。
これは弁証法だと言える。フロントは、正(無意識)から反(意識的自我)が生まれ出る段階(人間では反の方が強力になった)を問題とし、ユングは、反(意識的自我)から止揚(相互作用)を経て合(調和)へと至る過程を問題とした。そういう面では、フロイトを基盤としてユングが産まれたともいえる。この弁証法は、宇宙内で成長する全ての事象の成長原理である。
14-2)意識
14-2-1)意識の階層
◎意識には、「志向性」のある収束的1)能動性(トップダウン)意識と、志向性のない発散的2)受動性(ボトムアップ)意識、という二段階がある。更にはその受動性意識の下には、自律分散的3)無意識(覚醒状態)が流れている。物事が順調良く流れている間は、無意識(自動機能)が主導権を握り、不具合(大きな予測誤差)が発生すれば、志向性意識(手動操作)が立ち上がる。受動性意識は、その中間圏で、無意識(ボトムアップ型)がなおかつ主導権を握るが、注意(意識:情報を俯瞰するメタ認知)を要する事柄に、意識(瞑想・坐禅)というモニター機能(メタ意識・メタ認知)だけを差し向ける。
14-2-2)意識の統合情報理論オートポイエーシス
◎意識に関して、ジュリオ・トノーニが、「統合情報理論」を提唱した。「意識現象」の特徴は、意識経験の持つ1)「膨大な情報量」と、意識経験の常なる2)「統合」である。単純な例えを言えば、沢山の従業員(情報量)と彼等を一つにまとめる社長(統合)の存在である。それら(「膨大な情報量」と「核となる統合拠点」)が揃うことが意識が生まれる必要最低条件である。更に詳しく述べると、それらの間の有機的相互作用と、意識を支えるのに必要な情報の統合(拠点)が必要である。意識を統合する拠点に統合力が消失すると意識が消える。
更に必要なのが、覚醒状態とかかわる部位として、脳幹の網様体を含む「上行性網様体賦活系」(中脳から延髄にわたる網様構造)という構造である。上行性網様体賦活系を刺激すると眠りから覚める。逆に、この部位を破壊されると昏睡状態に陥る。これは、意識を立ち上がらせる為の「エネルギー供給機構」である。
まとめると、「意識」が立ち上がるには、1)上行性網様体賦活系という「エネルギー供給機構(覚醒機能:発電装置)」と、2)「膨大な情報量(記憶情報+感覚情報)」(特に現在進行中の感覚情報)と、3)「統合拠点」とが必要である。
注)統合拠点には、部分的統合拠点を有機的・階層的に統合する最高統合拠点が必要である。この内の最高統合拠点が、分離脳保有者は、二つ(左脳と右脳)ある。また様々な精神障害は、下位の統合拠点が機能不全に陥ったり、未発達だったり、逆に統合拠点が最高統合拠点に統合されていなくて半独立状態だったりして、機能している最高統合拠点では、うまく社会生活を送りづらい状況に陥らせる。また夢見の意識状態は、上位のメタ認知(最高統合拠点)が機能していない状況である。
参考1)乾電池のプラス側とマイナス側に電線を付けて、電線上に豆電球を付ける。電流を流すと豆電球が点灯する。電線を離すと消える。もしかすれば、意識も同じ原理ではないだろうか。豆電球を意識(統合拠点)とし、乾電池を視床(上行性網様体賦活系)とし、電流を情報(電気信号)とする。そうすれば、大脳が左右半球に分かれている理由もうなづける。
参考2)生物であれば、自分が持つ能力だけで、細胞や器官を生み出すように、自己(生物)が自己の構成要素を自己内部で生産することを、「オートポイエーシス」という。所が、生物ではない機械は、部品などの構成要素を自己生産しない他者依存型である。生物は、基礎素材は外部から取り入れるとしても、その構成素である細胞を自力生産し続けることによって生存を続け、細胞を生産できなくなれば死に至る。つまり、存続するためには、その自己生産システムが、その自己生産過程を自力で働かせて、自らの構成素を生産することが必要不可欠である。肉体にとっては、細胞の再生産が必要不可欠であるが、心にとっては、情報の再生産の継続が必要不可欠である。
疑問)夢見時の最高統合拠点はどの脳部位なのだろうか。
解)覚醒時の最高統合拠点は、背側前頭前野(メタ認知機能)であるが、夢見時にはそれが消灯される。劇場や映画館が、暗闇に近いほど閉ざされた空間を作り出すことで、それ(メタ認知機能のスイッチオフ)を再現している。そんな状況で、前帯状皮質が、「意識的」体験に必要な多くの機能に関連付けられる。つまり夢見時のレム睡眠では、前頭前野が不活性となり、前帯状皮質が活性化する。
参照)「睡眠・レム睡眠」に関しては、「5-3)前帯状皮質」の「7)「睡眠」」
注)意識(覚醒状態)は、視床下部、中脳網様体を中心とする賦活系と抑制系との相互作用によって調節される。その内、覚醒系は、中脳網様体視床下部後部が主役を務める。対して抑制系は、視床下部前部、尾状核視床汎性投射系、延髄網様体などが主役を占める。
これらの賦活系、抑制系に対して、各種の身体感覚性、内臓感覚性の上行性感覚情報、体液性要因(各種ホルモン)、下行性意志などが入力として入り、これらの系を駆動制御する。