帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 7)「睡眠」(「レム睡眠」「ノンレム睡眠」)(その二)

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
7)「睡眠」(「レム睡眠」「ノンレム睡眠」)
7-2)レム睡眠とノンレム睡眠
7-2-1)ノンレム睡眠(徐波睡眠:大脳睡眠)
◎睡眠に関しては、睡眠の開始と維持において重要な腹外側視索前野(視床下部前方部)から、覚醒系に向けて、抑制性のガバ作動性投射があり、この作用によって、覚醒系の活動が減少すると、ノンレム睡眠が誘発される。逆に、覚醒において重要なセロトニンノルアドレナリンによって、睡眠系が強力に抑制される。
つまり、睡眠を司る視索前野のガバ作動性神経(睡眠系)と、覚醒を司るオレキシンヒスタミンノルアドレナリンセロトニン神経(覚醒系)は、互いを制御し合う関係にある。
◎覚醒から「徐波睡眠(ノンレム睡眠:大脳睡眠)」に移行すると、橋背側部(橋被蓋)、中脳、小脳、視床大脳基底核、前脳基底部、視床下部前頭前野(眼窩部)、「前帯状皮質」、楔前部、側頭葉内側部で、「活性が低下」する。
注1)厳密に言えば、ノンレム睡眠=徐波睡眠ではない。ノンレム睡眠のうち、出現する脳波の「徐波成分が中心となる睡眠部分」を「徐波睡眠」と呼ぶ。徐波は、アルファ波より周波数が低いという意味であり、デルタ波(0.5~3Hz)とシータ波(4~7Hz)に分けられる。
注2)「脚橋被蓋核」は、基底核-大脳皮質ループおよび網様体脊髄路系を介して、運動の発現や姿勢筋活動の制御に関与する。また視床-大脳、大脳基底核投射や網様体賦活系を介して、意識レベルや睡眠・覚醒、注意、動機付け、学習の調節に関わる。
◎徐波睡眠(ノンレム睡眠)時には、「大脳が休息」(勿論、全面的完全休息ではない)するため、脳波はゆっくりとした波である。
注)シータ波は、ノンレム睡眠の第1段階(寝入りばな)にアルファ波と交代するようにして出て来る。アルファ波の後から出てくることからわかるように、リラックスした状態を表す。
◎徐波睡眠(ノンレム睡眠)中での大脳新皮質の「不活性化領域」は、「前頭前野(特に眼窩部)や頭頂連合野(特に楔前部)」で、一次および二次感覚野は、活性化している。つまり、感覚情報は、ある段階(一次と二次感覚野)までは入って来るが、上位階層(頭頂連合野前頭前野など)は門戸を閉ざしている。
注)ノンレム睡眠中は副交感神経優位である。
7-2-2)レム睡眠(身体休息)
◎徐波睡眠(ノンレム睡眠:大脳の休息)からレム睡眠(夢見:身体の休息)に移行すると、橋被蓋、視床扁桃体、海馬、「前帯状皮質」、側頭~後頭葉領域が、「活性化」する。一次視覚野の抑制と視覚イメージを認識する二次視覚野の活性化が見られる。大まかに言うと、レム睡眠は、「大脳辺縁系の活動上昇」と「前頭前野の活動抑制」が特徴である。
レム睡眠(夢見)は、大まかに言えば、「外向性機能が停止」し、「内向性機能が活性化」する。
注)レム睡眠時に活性化するのは、前帯状皮質で、不活性化するのは、後帯状皮質である。ノンレム睡眠(大脳睡眠)時に不活性化するのは、前帯状皮質。つまり、前帯状皮質視床は、ノンレム睡眠(大脳睡眠)時に不活性化し、レム睡眠(身体睡眠/夢見)時に活性化する。
◎レム(夢見)睡眠中には、橋被蓋、左視床、両側扁桃体および帯状皮質前部の神経活動が活発化するが、逆に、両側前頭前野帯状皮質後部および楔前部、頭頂縁上回(40野)、の神経活動は低下(不活性化)する。
レム睡眠時に前帯状皮質が活性化されるのは、扁桃体から興奮性入力が入るからである。記憶などに関係する海馬が覚醒時よりもむしろ強く活動する。
疑問)何故レム睡眠時に扁桃体が活性化するのか。
解)逆にレム睡眠中に感情を司る扁桃体の活動が低下しているという報告もある。扁桃体神経細胞の半数以上は、覚醒時や徐波(ノンレム)睡眠に比べレム睡眠中に高い活動を示したが、レム睡眠中活性が持続することはなく、レム睡眠のある時期に他に附随して、あるいは突発的に活性する場合が多い。つまり扁桃体の活動は、レム睡眠中の情動変化に伴う自律神経系の変動に密接に関わる。結論的には、レム睡眠時に扁桃体が活動するという報告が多い。なお急速眼球運動前に、腹内側前頭前野扁桃体、前帯状皮質、島皮質と海馬傍回に活動が生じている。眼窩部は、扁桃核、海馬、視床下部線条体とも密接な結び付きがある。
注)睡眠中の「急速眼球運動」は、見ている夢上の像を追うために眼球がそちらに視線を向けているからである。その際には視覚イメージの想起に関連する高次視覚野で活動が生じている。急速眼球運動の開始に連動して情動体験(前帯状皮質)や運動イメージに関連する脳部位(運動前野)が活性化する。
レム睡眠時には、身体は「骨格筋が弛緩して休息」状態にあるが、「脳は活動して覚醒」状態にある。レム睡眠時には、視床での情報伝達が遮断され、脊髄のレベルで筋肉への情報伝達が遮断されて、運動機能が制止されている。それに対して「大脳皮質は覚醒」時よりもむしろ強く活動している。つまり、外部情報、外向機能は遮断されるが、内部情報(記憶情報)、内向機能は活性化される。
レム睡眠時には「コリン作動系のみ」が活動する。1)脳幹のコリン作動系は、上行性網様体賦活系の活動を促して、逆説(レム)睡眠の導入と維持、脳全体の興奮レベルの急速な上昇に関わる。歩行運動、姿勢反射、筋緊張の調節などにも関与する。また、2)前脳」基底部のコリン作動系は、直接大脳皮質に投射して、大脳皮質を活性化させ、注意や集中を制御して感覚情報への感度を調節する。これにより覚醒時と同様の脳波覚醒が誘発される。
注)アセチルコリンを放出するコリン作動性神経は、中枢神経系に広く分布する。その中でも特に前脳基底部と脳幹への投射が、睡眠からの覚醒や視覚の働きに関わる。
レム睡眠中には、扁桃体など情動記憶に関連した部位の活性化が起こる。レム睡眠は新生児期(生後28日未満)や学習の直後に多い。レム睡眠が誘導する「徐波」には、「記憶の定着」を促進する効果や、「シナプスの結合」を強める効果がある。海馬に内側中隔野や対角帯垂直脚(前脳基底部に存在するコリン作動性神経核の一つ)からコリン作動性神経が投射をして記憶の形成や強化に関与する。なお中脳深部核のガバ作動性神経は、レム睡眠からノンレム睡眠への切り替えにおいて中枢的な役割を担う。