帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 5)「瞑想」(その二) 

帯状皮質って中間管理職なのか
(5-2)前帯状皮質(個別機能)
5)「瞑想」
5-2)積極的注意と受動的意識
◎本の中の文字を受動的に見る(「受動的意識」段階)際には、帯状皮質前部は活動しない。ところが、新しい単語を考え出したり、特定の目標を注目するという「目標志向」中には「前帯状皮質は活動」する。
つまり、前頭葉の中心線に沿った帯状皮質前部は、「トップダウン型能動的選択的注意システム」(の中心)として働く。「能動性注意」には帯状皮質(特に前帯状皮質)が働く。
◎逆に、出現頻度の低い目標を検出するために、単語のリストに注意するとき、主観的な感覚としては、「頭の中の思考や感覚を空」にしている、つまり、ぼんやりと視線を定めずに入って来る情報を眺める感じである。流れて来る情報の内で、引っ掛かる物が来たら、それに注意を向ける。この主観的な意識を空にする(「受動的意識」段階)では、「帯状皮質前部の活動の低下」が同時進行する。この「意識を空にする」のは、洞察瞑想と同じである。
疑問)「瞑想時や安静時には前帯状皮質が活性化する」のと、「受動的意識では、帯状皮質前部の活動の低下する」のでは、矛盾すると思える。
解)集中瞑想の間、前頭前野の活動は広い範囲で抑えられているが、注意制御に関係する前帯状皮質背側部(24野)だけは活動を続けている。しかし、観察瞑想では通常の安静時と比較して、前帯状皮質および前頭前野に変化はあまり見られない。DMNでは、前帯状皮質腹側部(32野)が活性化する。活性化する前帯状皮質の部位が、瞑想の種類によって異なる。
◎意識を1)外向性と2)内向性に分ける。その内の「内向性意識」を、大脳新皮質を起点にして、更に3種類に分ける。
2-1)「ボトムアップ的受動意識」(大脳辺縁系やそれよりも下位階層から上がって来る情報を受け入れる)、
2-2)「トップダウン的能動意識」(=注意:前頭葉から下位階層に差し向けられる注意)、
2-3)「水平的意識」(前頭葉が議長を務めて、主に大脳新皮質内の情報を扱う、シミュレーション、思考、内省)
◎目標を検出する「努力感(積極的注意状態)」が、帯状皮質前部の活動を伴うのとちょうど逆に、例えば、目覚めて頭がぼんやりしているような「思考を空にして受動的意識状態」にすることは、帯状皮質前部の活動停止を伴う。
注)意識とは、知情意や記憶が機能していることを「実感」として感じ捉えることができる。これに対して、無意識は、知情意や記憶は働いているが、実感できていない部分を指す。この「実感」を受け持つのは、「前帯状皮質」と考えられる。
帯状皮質前部が、「積極(能動)性と消極(受動)性」との入り切りスイッチの役目を担う。別の言い方をすれば、積極性・志向性意識状態(トップダウン意識)では、前帯状皮質が活性化する。逆から言えば、消極性・無志向性意識状態(ボトムアップ意識)では、前帯状皮質が不活化する。
◎意識を空にする(焦点を定めない)、心の受動性を保つには、帯状皮質、特に帯状皮質前部(前帯状皮質)の機能を停止させなければならない。これは、瞑想(特に観察瞑想)時に不可欠な機能である。意識を、心を漂わせる(無志向性)状態にする。
疑問)瞑想時の前帯状皮質の活動性に関して、真逆の研究結果が提出されている。これは、瞑想において、志向性(トップダウン)意識を起動させて置くか、志向性を停止させて、完全受動性(ボトムアップ)意識段階にまで、低下させるかの違いではないか。
解)これについては解決済である。要するに、集中瞑想(固定的志向性意識)と洞察瞑想(受動性意識)との違いである。
◎瞑想によって、脳内大規模ネットワークのうち、「デフォルトモード・ネットワーク」(内向性)と「背側注意ネットワーク」(外向性)の2つのつながりを強化し、より迅速に切り替えられるようになる。
◎瞑想に近いものとして、あるいは同等のものとして、「マインドフルネス」がある。それは、意図的に今この瞬間に価値判断をすることなしに注意(意識)を向け続けること、と定義される。ある対象(身体内外の刺激)をネガティブに評価して抑制するなどといった意識的な制御は行わないし、反応もしない。たとえそれが嫌悪する内容であっても、価値評価せずに、今起こっていることを、ただありのままに見守る(観察する)のみである。これは洞察瞑想に当たる。
◎瞑想は、心身内の情報の流れを抑制しないので、脳内の前後・左右の結合性を高める。具体的には、上縦束と脳梁の結合性を高める。前頭部と後頭部を連絡する上縦束の神経線維束密度が増加する。上縦束は前頭葉頭頂葉をも連絡する、最も大きな大脳の外側系の神経線維束である。
◎瞑想者では、左側頭頂間溝周辺の灰白質(神経細胞本体群)が肥厚しており、その程度は瞑想年数が長いほど著明であった。
注)行動を抑制する機能(反応抑制機能)は、前頭葉(背外側前頭前野、右の下前頭前野、前補足運動野)が関与する。下前頭前野および前補足運動野とともに結合性を持つ頭頂葉の頭頂間溝領域も、 反応抑制活動を示す。つまり頭頂間溝領域も下前頭前野や前補足運動野と協調しながら、 反応抑制機能を生み出す働きを担っている。なお前頭前野外側部が、ワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を主に担っている。