帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能) 2)「痛み」と「痛み」知覚と痛み「体験」(その三) 

帯状皮質って中間管理職なのか (5-2)前帯状皮質(個別機能)
2)「痛み」と「痛み」知覚と痛み「体験」
2-3)痛みを「予期」するだけで
参照)「予期」に関しては、「5-4)前帯状皮質」の「13)「予測」「不確実性」」
◎前帯状皮質は、「痛みを予期」(志向性注意)しただけでも活性化する。これは、実際の体感のみではなく、つまり、事実(実際の痛み刺激)に基づかなくとも、ただ予期・予想・想定だけでも活性化するという、気持ち(心)の問題(レベル)でもある。つまり、前帯状皮質が気持ち(心)を担当し、体性感覚野が身体状況を担当するといえる。言い換えると、催眠(暗示)は、気持ち(心)に作用(影響)を加える。
注)予期とは、将来のことをあらかじめ見当をつけて、それが実現するのを待ち受けることである。つまり、外部の刺激がなくても、内部の「意識・注意の働きが予期を生み出す」。
◎「予期に関連する脳領域」については、例えば不快事態の予期に関与す脳部位は、島皮質、背外側前頭前野、前帯状皮質扁桃体などである。
参考)疲労の程度の予測および自己評価に関する脳の活動では、右大脳半球の縁上回(40野)、背外側前頭前野(9野)、前頭極(10野)などの脳部位が「疲労の予測」に関わる。
注1)背外側前頭前野は、9野と46野である。
注2)未来の出来事を想像する際に、頭頂葉40野(縁上回)、9野(背外側前頭前野)、10野(前頭極)が関わっている。
注3)「前頭極」(10野)は、「将来の予測」や「計画立案」に中心的に関わっている。また、前頭極は、未経験の出来事に対するメタ認知判断、即ち、経験済みか未経験であるかという判断を下す。
注4)縁上回(40野)は、角回とともに下頭頂小葉を構成する。ウェルニッケ野の一部は縁上回にあたる。右縁上回が損傷すると、人は他人に感情を投影したり、共感する能力が阻害される。さらに周囲の人々の感情を知覚することができないために、自己中心的になりがちである。左右両方の縁上回は、音韻的単語の選択を行うときに活性化する。
また右縁上回は時間感覚にも関わる。縁上回が、主観的な時間経過の知覚に関連する。両側の前頭前野と右下頭頂小葉が時間情報の符号化に関わる。右下前頭回が、知覚されたリズム要素を時間的な流れに編成する際に重要な役割を果たす。なお時間知覚において重要な機能を担うのは、前頭前野大脳基底核、小脳、下頭頂小葉が上げられる。
2-4)「心の痛み」(社会的痛み)
◎「自尊感情の低い」者は、高い者と比較して、「社会的痛みが高く」、背側前帯状皮質(24野)の活性化の程度が高い。
注)「自尊感情」には、自己価値の感覚(自分は価値ある存在だと感じること)が、「外的な基準」(他人から価値を認めてもらうこと)に依存している1)他律的「随伴性自尊感情」と、自己価値の感覚が社会的な成功や失敗に依存しておらず、自分が自分自身でいられること(「自分が納得した価値観」に従って行動出来ている状態)から自然に得られる2)自律的「本当の自尊感情」とがある。
参考)マズローの欲求階層説の四段目に「承認欲求」があるが、この承認欲求には前段階と後段階とがある。前段階の承認欲求は、他者からの承認を得ようとする他者依存型であるが、後段階の承認欲求は、自分で自分を承認するという自立(自律)性が確立して、やがて承認欲求そのものが消えて、次の自己実現段階に跳躍する。所で、自己実現欲求とは、自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して、自分がなりえるもの(潜在的可能性)にならなければならない(実現)という欲求、のことである。自尊感情も承認欲求も、他律から入って自律へと超越して行く。
◎社会的排斥(仲間外れ)によって生じた「社会的痛み」「心の痛み」と、前帯状皮質の活性とに高い正の相関(正比例)が認められる。その時の共感的サポートによって得られる痛みの低下と前帯状皮質の活動にも正の相関が認められる。即ち、心の痛みを強く感じている個人ほど、前帯状皮質の活動は大きくなっており、心の痛みが情緒(共感)的支援によって低下した個人ほど、前帯状皮質の活動は低下している。
逆に、共感的支援による心の痛みの低下と負の相関(逆比例)を示す領域として左の「外側前頭前野」があげられる。この領域は心の痛みが低下した人ほど、大きな活動を示す。
つまり、体の痛みと同様に、「心の痛み」も、「前帯状皮質」で感じている、と言える。しかも、外側前頭前野(外向性)と前帯状皮質(内向性)とは、反比例の関係にある。
参考)痛みには、1)肉体的身体的痛み、2)心理的痛み(不安など)、3)社会的痛み(家庭不和など対人関係から来る痛み、孤立感)、4)人生上の痛み(道徳的な罪責感など)、がある。なお2)3)4)の痛みは、全て「心の痛み」と総称できる。
◎「ねたみ」は、痛みに関わる前帯状皮質が関与する。「ねたみ」とは、「うらやましくて、その相手が憎いし、自分が悔しい」、という複雑な感情(うらやましい・憎い・悔しい)である。ねたみの感情には、前帯状皮質(葛藤や身体的な痛みを処理する脳部位)が関連している。
注)嫉妬の本来的目的は、自分に来るはずの資源(食料・愛情・才能・名誉などなど)がほかの人へ行ってしまった状態を回復したい欲求である。他者にアピールして、自分にもくれるように要求する気持ちである。
◎ねたみの対象の人物に不幸が起こると、線条体(報酬に関連する部位)が活動する。ねたみに関連して前帯状皮質の活動が高くなる人ほど、他人の不幸に対して線条体(報酬に関与)が強く反応する。
これは、ねたみの対象の人物に不幸が起こると、その人物の優位性が崩れ、その結果として、自分自身の相対的な劣等感が軽減されて、心地よい気持ちになるからである。つまり、ねたみにとって、他人の不幸は蜜の味になる。他人の不幸は報酬になり得る。
◎背側前帯状皮質(24野)は、社会的疎外の経験で生じる不快感(社会的痛み)を反映した活動を示す。背側前帯状皮質は、身体的痛みと、心理的痛みや社会的拒絶(社会的痛み)とにも両方に関わる。情動、特に痛みやストレスに背側前帯状皮質が関わる。
◎社会的排斥(拒絶・孤立・疎外)を受けると、前帯状皮質が有意な活動を示す。この領域の活動は、心の痛みと正の相関(正比例)を示すが、熱や痛みを用いた身体的痛覚刺激の際も同様な活動を示す。つまり、前帯状皮質は、心身の痛みを本人自身に「具現化」(見える化)している領域である。
注)具現化とは、見えない抽象的事柄(嫉妬・孤独感など)を見える化することである。
2-5)他者の痛み体験
◎他者の痛み体験を見ている時に活性化する脳領域は、両側前帯状皮質(吻側部:25野と尾側背側部:24野)、両側島皮質、内側前頭前野腹側部(眼窩前頭前野)である。たとえそれが催眠による誘導であっても、同じ脳領域が活性化する。つまり、実際の痛みが伴う場合でも伴わない(仮想・空想の)場合でも、活性化する。即ち、痛みそのものの実体験ではなく、痛みに伴う情動体験、不快体験をする。
注)実際の場面だけではなく、痛そうな画像を見ただけでも、「前島皮質と前帯状皮質」の活性化が生じ る。この領域は、1)心身に関わらず、2)自他に関わらず、3)虚実に関わらず、4)現在未来(予期)に関わらず痛みに反応する。
催眠や共感による痛み体験には、痛みの認知脳領域(体性感覚野と後部島皮質)は、活性化されない。つまり、痛みそのものの「感覚」(身体的痛み)と、痛み「体験」(心の痛み)とは別ものである。
参考)感覚と体験は別物ということで、「対岸の火事」(自分には関係がなく、なんの苦痛もないこと)を思い浮かべた。