帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (4)帯状皮質全般の機能 3)帯状皮質の機能

(4)帯状皮質全般の機能
3)帯状皮質の機能
3-2-5)「オキシトシン
オキシトシンは、視床下部に属する、1)「室傍核」と2)「視索上核」の神経分泌細胞で合成され、「下垂体後葉」から分泌される「ホルモン」である。「オキシトシン産生」細胞は、視床下部のほか、3)「分界条床核」にも存在する。
注1)ノンレム睡眠時に、分界条床核のガバ作動性神経が興奮することで覚醒が惹起される。分界条床核のガバ作動性神経が持続的に興奮すると「オレキシン」系が動員され、その作用によって覚醒が維持される。分界条床核は、扁桃体に属する脳部位である。
注2)「オレキシン」系は、睡眠・覚醒調節機構の重要な要素である。それだけではなく、情動やエネルギーバランスに応じ、報酬系、摂食行動を適切に制御する統合的な機能を担っている。だが最も中心的な役割はやはり覚醒の維持である。オレキシン産生神経は、視床下部外側野を中心にその近傍の視床下部脳弓周囲野、そして視床下部後部に存在する。そのオレキシン作動性神経の投射先は、青斑核、結節乳頭体核、背側縫線核、橋被蓋、外背側被蓋核や脚橋被蓋核である。つまり投射先は小脳をのぞく中枢神経系の全域にわたる。具体的には、脳幹のモノアミン作動性神経、コリン作動性神経、視床の室傍核など、覚醒・睡眠機構に関与する部分や、視床下部内の弓状核、腹内側核など摂食行動の制御に関与する部分に特に強い投射が見らる。
◎脳内の「オキシトシン受容体」が存在するのは、「側坐核」、「扁桃体」、「分界条床核」、「帯状皮質」などなどである。
オキシトシンは、「前頭前野」、「海馬」、扁桃体などに働きかけるホルモンとして、うつ病に関わりの深い「海馬の神経細胞の新生」を促進させることによって、うつ病を改善する。
オキシトシンは、扁桃体と関係の深い「内側前頭前野」や「前帯状皮質」に働きかけて、「抗ストレスホルモン」として作用して、「扁桃体の働きを抑える」。
◎分界条床核の活動亢進によって、腹側被蓋野の抑制性介在神経の活動性が抑制され、それまでこの介在神経により受けていたドーパミン神経の抑制が解除されることでドーパミン放出が高まり、快情動が生成される。
帯状皮質には、「オキシトシン」の受容体がたくさんあり、社会報酬(社会から得られる良い事柄)に関しては、オキシトシンの影響を受ける。側坐核腹側被蓋野の「ドーパミン」に、「オキシトシン」が作用することによって、単なる「社会的刺激」だった情報が、「報酬的価値」を有するようになる。つまり、オキシトシンが、社会的無意味刺激を有意味報酬へと転換させる働きを持つ。
◎(ネズミでの実験から)慰め行動を引き起こすのに、前帯状皮質オキシトシンが重要な役割を担っている。
◎危機を感じさせるような状況下での瞬時判断は、扁桃体や(恐怖や不安に関与する)分界条床核とよばれる神経集団が重要な働きをする。分界条床核内の不快神経は、痛み、苦み、酸味、悪臭、暑さや寒さなどの感覚刺激、さらには、精神的なストレスにも反応して活性化し、不快な感情を引き起こす。続いてそのような不安不快から覚醒を引き起こす。
オキシトシンの抗ストレス作用は、「抑制系神経で知られるガバ神経」を活性化して、恐怖刺激に対する「すくみ行動を抑制」する。オキシトシンは、「母は強し」の強壮剤である。つまり、恐怖、不安に打ち勝つ姿勢を生み出すホルモンである。
オキシトシンが、前帯状皮質-扁桃体回路に作用して「共感」を促進する。安心できるような社会環境においてオキシトシンが分泌されることで他者から裏切られるリスクへの予測が低下し、その結果として向社会行動が促進される。もちろん安心できないような社会環境においてはオキシトシンの分泌は抑制される。
他者から裏切られる可能性が高い状況において扁桃体は反応を示すが、その時にオキシトシンを鼻から投与した場合に、扁桃体活動が抑制され、他者から裏切られる可能性が高い状況であっても他者を信頼し続けてしまう傾向が高まる。というのは、視床下部オキシトシン神経細胞は、「側坐核」に送っている。ネズミでは、オキシトシンホルモンの匂いを嗅ぐと「相手を信用しやすく」なる。
オキシトシンは、精神的な安らぎを与えるといわれる神経伝達物質セロトニン作動性神経の働きを促進することでストレス反応を抑え、人と交わったりする社会的行動への不安を減少させる。
オキシトシンを人に投与すると、他人に対する信頼感を増加させる。社会行動に障害がある自閉症者にオキシトシンを投与したところ、前頭前野の活動が増加して症状の改善が見られた。
3-2-6)痛みの共感
参照)「共感」に関しては、「7)帯状皮質の障害と症状」の「1-1)帯状皮質(全般)と症状」の「1-1-2)自閉症」の「1-1-2-2)共感に関わるネットワーク」
帯状皮質は、「自分自身が痛みを経験」している時に活性化するだけでなく、「他者が経験する痛み」に関連しても活性化する。例えば、他者が痛みを経験している様子を観察するだけでも活性化する。
疑問)どういうネットワークを介して、「他者が痛みを経験している様子を観察するだけ」で、帯状皮質は活性化するのか。
解)「共感」が生じる背景に「心の理論」機能が関与している。「前帯状皮質」および「島皮質前部」は、他者の心的な痛みを自らの身体で感じ、「主観」としての痛みの共感が生じる際に重要な役割を担う。親密な関係にある他者が痛みを感じている場面を見ると、島皮質が活動する。つまり心理的な痛みに対しても島皮質が関与する。
◎本人自らの痛みに対して、一次体性感覚野、二次体性感覚野、一次運動野、前帯状皮質尾側部(24野)で活性化がみられる。他方、前部帯状皮質(24野32野)および左側前部島皮質(両側という説もある)では自らの痛みだけではなく、他者の痛みに対しても活性化がみられる。自他不分、自他同一、自他一如である。共感は、自分事化である。
3-2-7)情動感情
◎「情動」には、選択機能 、利用できる膨大な情報の中から、生存上適応上で重要なものと関連のないものを区別し、「重要なものを選択する適応的機能」がある。情動には、適応のために、膨大な情報の中から、重要なものを選別して、それに全集中する役割を担う。
◎「情動や感情」には、大脳辺縁系(特に扁桃体)、島皮質、帯状皮質、眼窩前頭前野、内側前頭前野などが広く関わる。