帯状皮質って中間管理職なのか

帯状皮質(帯状回)について調べた事柄を本の形式で提示していきます。

帯状皮質って中間管理職なのか (4)帯状皮質全般の機能 3)帯状皮質の機能 3-1)帯状皮質全般

3)帯状皮質の機能
3-1)帯状皮質全般
帯状皮質の機能は、1)「情動」領域、2)「運動」領域、3)「認知」領域、4)「記憶」領域に分けられる。
帯状皮質(特に前帯状皮質)は、大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たす。
注)大脳辺縁系は、古皮質(海馬、脳弓、歯状回)、旧皮質(嗅葉、梨状葉)、中間皮質(帯状皮質、海馬回=海馬傍回)、皮質下核(扁桃体、中隔、乳頭体)の総称である。
◎感覚刺激の入力が、小脳、視床、一次感覚野、一次体性感覚野を中心に感覚運動野を、更には前運動野や腹側前帯状皮質(32野)、背側後部帯状皮質(31野)など「感覚処理系」を活性化させる。このように、単に「感覚刺激があっただけで、帯状皮質は活性化」する。
◎前帯状皮質前下部(膝下野:25野)は情動に、前帯状皮質(「32野」(腹側)・「33野」(脳梁接地)・「24野」(背側))は痛覚認知と反応の選択に関わる。
注)前帯状皮質を、情動領域(25野33野、32・24野の腹側部)と認知領域(帯状皮質運動野=32・24野の背側部)とに、大きく二分する説もある。
◎後帯状皮質(「23野」(後部吻側、内側部)、「31野」(楔前部と隣接)は空間情報処理と、脳梁膨大後皮質(26野、29野、30野)は、長期「記憶」との結びつきが強い。
3-2)帯状皮質の個別機能
3-2-0)監視(モニタリング)と報告
◎(前)帯状皮質は、葛藤、ストループ課題、不一致状況、競合事態など、「複数の情報、条件」をモニタリング(監視)する。「モニタリング監視」とは、「メタ認知活動」である。「下位階層(現場)での情報処理を上位階層がモニタリング監視」するのがメタ認知活動である。
参照)「メタ認知」に関しては、「9)「催眠」」の「注)「メタ認知」」
◎注意監視システム(モニタリング)とは、予期した事柄がいつ出現するかを監視して、出現したら知らせるシステムであり、これを前帯状皮質が担う。「現場処理」に対する「後方での情報収集」である。
◎(前)帯状皮質は、「意識、注意を起動させて置き」、不都合状況が解消すれば、スイッチが切れる。但し、自ら不都合解消に対応するのではなく、あくまで「監視」(情報収集)して「報告」するだけである。
3-2-1)ストループ課題(反応競合課題)
◎前帯状皮質背側部(24野)は、「ストループ課題」進行中に強く活性化する。つまり、「不一致」の時に、前帯状皮質神経細胞が強く活性化する。
二重課題、ストループ課題、作業記憶活動中には、必ず前頭前野背外側部と前帯状皮質(24野:背側部)が活性化する。
注1)ストループ課題(文字を読まずに色名を言う課題:赤という文字が青色で書かれている場合、色名の「あお」と応える)に関与する代表的な部位は、帯状皮質前部と帯状束(地下情報ケーブル)である。ストループ課題は、必要情報の選択(選び出し)と不必要情報の抑制(反応抑制)との機能を同時に必要とする。
注2)ストループ課題では、「意識的」に特定の事柄(心に描いた情報)に注意を向ける「選択的注意」力が要求される。
注3)選択的注意は、多くの情報の中から、特定の情報に対して選択的に注意を向けることをいう。選択的注意とは、特定の情報に注意を向けることだけではなく、それ以外の情報を無視する(抑制する)という2つの機能から成り立つ。つまり「不確定要素があり、無意識的処理では対応を誤る、あるいは対応仕切れない」場合に、(前)帯状皮質が起動する。
◎前帯状皮質背側部(24野:中帯状皮質前方部)は、「モニタリン グ」(監視)機能を持ち、「反応競合」を検出すれば 、それを前頭前野背外側部(上位階層)に知らせる。
注)反応競合とは、複数の選択肢がお互いに反応(応答)しようと、競り合うことである。例えば、ストループ課題の文字と色との反応競合など。
疑問)前帯状皮質は、モニタリング監視機構の最前線ではないだろうか。
解)前帯状皮質は、モニタリング監視に特化しているように見える。「無意識的処理では対応仕切れない高い処理を要する事案」に対して、いつでも「意識的処理に切り換え」られるように、「情報収集、情報処理係」として起動(スタンバイ)する。
3-2-2)表出行動
帯状皮質を刺激すると、内臓器官の運動(反応)、感情の変化、発話の変質、(不随意的)自己運動行動などを表出する。
◎会話中、手を動かす時、あるいは眼球を動かす時に、帯状皮質が活性化する。つまり複数の機能を同時並列的に作動させたい場合に働く。
3-2-3)作業記憶
◎作業記憶(ワーキングメモリ)は、短期記憶の一つで、作業記憶と長期記憶の間では、絶えず情報がやり取りされる。様々な認知活動を行う際に必要な情報を能動的かつ一時的に保持し、その情報に操作を加える過程を指す。言い換えると、課題遂行中に、その課題を遂行する目的で一時的に必要となる記憶の機能と、それを支える仕組みや構造を備えたシステム(機構)を指す。
◎作業記憶(ワーキングメモリ)は、「前頭前野背外側部」(トップダウン制御機能)と「前帯状皮質」(監視機能)とが連携して働く。一般には、前頭葉頭頂葉、前帯状皮質、および大脳基底核の一部がワーキングメモリに関与する。
◎「意識」と関係する作業領域を生み出すために、内側前頭前野帯状皮質から、前頭前野背外側部、頭頂葉などまで関わるが、「前頭前野が中核」となって広範囲の脳部位が働く。
◎作業記憶は、「認知機能の基礎」(インフラ)として働く。いろいろな場面に必要不可欠で、例えば、複雑な文の理解、学習、思考、暗算、推論、問題解決、計画設計などで用いられる。具体的には、「全体を俯瞰」しながら、「個別事案」に「注意資源を割り当てする」という形で調整をする。それら個別事案、例えば、「社会的痛み」、「競合」解消やその観察、「報酬」処理、「心の理論」に対しても、多くの場合、「島皮質前部」と共同して働く。
注)トップダウンとは、上位から下位に向かって処理する手法をいい、ボトムアップは、その逆方向、下から積み上げていく方法をいう。例えば、感覚野などから高次の領域(前頭葉連合野)へのボトムアップフィードフォワードの情報の流れ、逆方向の高次から感覚野などへのトップダウン=フィードバックの情報の流れ。
◎作業記憶は、「注意の制御」を担う最上位の「中央実行機能」の元に、下位の「空間性作業機能」、「長期記憶倉庫機能」、「言語性作業機能」などを適宜に「束ねる元締めシステム」である。
注)中央実行系(機能)は、「注意の制御」や、「処理資源の配分」といった高次の認知活動を司る。
参考)作業記憶(ワーキングメモリ)には、一つの課題遂行を完結する機能全般を指す「上位階層の作業記憶」と、課題遂行機能の内の一部を構成する一時記憶機能・作業機能だけを指す、「下位階層の作業記憶」とがある。
3-2-4)レム睡眠
レム睡眠中には、レム睡眠と急速眼球運動の中枢である脳幹(橋 ・延髄)から発っせられる神経刺激によって大脳皮質が活性化し、脳内に感覚イメージを夢として体験する。
レム睡眠中は、前帯状皮質(後帯状皮質の活性は低下)、腹側前頭前野扁桃体、橋被蓋、左視床大脳基底核の活動性が高い。二次視覚野の血流が増加するのに対して一次視覚野では低下する。脳幹の橋からの活動が、視覚関連野の内向き(外界からの感覚性視覚情報ではなく記憶からの記憶性視覚情報)の活性化を促す。
注)腹側前頭前野とは、腹内側前頭前野と腹外側前頭前野とを含めた用語である。
参照)「睡眠」は、「5-3)前帯状皮質」の「7)「睡眠」」